・・・ 母親の歎いたのも、無理はありませんでした。この三びきの子供が、川中でいちばん目立って美しく見えたからであります。そして、川の水は、よく澄んでいましたから、上からでものぞけば、この三びきの子供らが遊んでいる姿がよくわかったのであります。・・・ 小川未明 「赤い魚と子供」
・・・それじゃ便りのなかったのも無理はないね」「便りがしたくたって、便りのしようがねえんだもの」 女は頷いて、「それからどうしたの?」「それから、間もなく露西亜の猟船というのがやって来たんだ。ところが、向うの船は積荷が一杯で、今度は載・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・、二人肩と肩と擦れ寄りながら、自分の家の前まで来て内へ入ろうと思った途端、其処に誰も居ないものが、スーウと格子戸が開いた時は、彼も流石に慄然としたそうだが、幸に女房はそれを気が付かなかったらしいので、無理に平気を装って、内に入ってその晩は、・・・ 小山内薫 「因果」
・・・それも無理のないとこや。なんせ、痩せおとろえひょろひょろの細い首しとるとこへもって来て、大きな髪を結うとりまっしゃろ。寝ぼけた眼で下から見たら、首がするする伸びてるように思うやおまへんか。ところで、なんぜ油を嘗めよったかと言うと、いまもいう・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・そして彼は三百の云うなりになって、八月十日限りといういろ/\な条件附きの証書をも書かされたのであった。そして無理算段をしては、細君を遠い郷里の実家へ金策に発たしてやったのであった。……「なんだってあの人はあゝ怒ったの?」「やっぱし僕・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・それで今度はお前から注文しなさいと言えば、西瓜の奈良漬だとか、酢ぐきだとか、不消化なものばかり好んで、六ヶしうお粥をたべさせて貰いましたが、遂に自分から「これは無理ですね、噛むのが辛度いのですから、もう流動物ばかりにして下さい」と言いますの・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 少し我が儘なところのある彼の姉と触れ合っている態度に、少しも無理がなく、――それを器用にやっているのではなく、生地からの平和な生まれ付きでやっている。信子はそんな娘であった。 義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・そのかわりには私はまた、あなたのどんな無理でも聞きましょう。と親しげにいう。 否みかねて光代はついに従いぬ。時は朝なり。空は底を返したるごとく澄み渡りて、峰の白雲も行くにところなく、尾上に残る高嶺の雪はわけて鮮やかに、堆藍前にあり、凝黛・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・の何枚目に書いてありました』などとまぜ返しを申し候ことなり、いよいよ母上はやっきとなりたもうて『お前はカラ旧癖だから困る』と答えられ候、『世は逆さまになりかけた』と祖父様大笑いいたされ候も無理ならぬ事にござ候 先日貞夫少々風邪の気ありし・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・ すなわち一つは宇宙の生命の法則の見地から見て、かりのきめであって、固執すると無理があるということだ。も一つはたとい多少の無理を含んでいても、進化してきた人間の理想として、男女の結合の精神的、霊的指標として打ち立て、築き守って、行くべき・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
出典:青空文庫