・・・人と人との煩瑣な関係に於ても、彼我を越えた心と心との有様を眺める。心が宇宙を浸す。深い、広大な、叡智に達する程のポイズを味い得ることは稀でない。故に、古人は「ものゝあはれ」と、いう言葉を、秋に感じたのではないか。 ポイズということか・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・は当時まだつよくのこっていたブルジョア・リアリズムの煩瑣な影響から脱し、統一されたボルシェヴィキ的世界観によって輝き出す独特の簡明さ、確信――ブルジョア作家が「芸の力」によって我ものにしようと甲斐なくも焦慮する作品のこくが、正に階級的実践の・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・この主人が、差入屋としては親切な部だという評判をいつしか得ている点であろうが、進んでその書き方を若い女に教えてやろうとせず、また敢て教えて下さいと云おうともしないところに、商いのかけひきと同時に、その煩瑣な形式で普通人を戸惑わせ、自身を無力・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・私たちはそういう或る意味では煩瑣な芭蕉学から離れ、きょうのこの心のままで彼の芸術にふれてゆくのであるが、それなりに生々とした感銘をうけ、感覚に迫ったものをうけるのは、芭蕉の芸術にどういう力があればであろうか。芭蕉を、彼の生きた時代の世相との・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・この生々しく切迫し、本源的に八〇年代のインテリゲンツィアの非行動的な煩瑣饒舌に反抗している若者の内面的吐露を、彼の教師の一人であった数学の学生は、さて、どう理解したであろうか。「言葉じゃないよ、錘だ!」 これがその学生の批評である。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ よみ難かった母の原稿の浄書から印刷に関する煩瑣な事務万端について援助を惜しまれなかった私の親友壺井栄夫人に感謝する次第である。〔一九三五年七月〕 宮本百合子 「葭の影にそえて」
出典:青空文庫