・・・尺八の稽古といえば、そのころ村に老人がいまして、自己流の尺八を吹いていましたのを村の若い者が煽てて大先生のようにいいふらし、ついに私もその弟子分になったのでございます。けれども元大先生からして自己流ですから弟子も皆な自己流で、ただむやみと吹・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・指すところをじっと見守っていると、底の水苔を味噌汁のように煽てて、幽かな色の、小さな鮒子がむらむらと浮き上る。上へ出てくるにつれて、幻から現へ覚めるように、順々に小黒い色になる。しばらくいっしょに集ってじっとしている。やがて片端から二三匹ず・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・と秋三は煽てて云って、勘次の額に現れ始めた怒りの条を見れば見る程、ますます軽快に皮肉の言葉が流れそうに思われた。「勘よ、うちにビール箱が沢山あったやろが、あれで作ったらどうやろな?」とお霜は云い出した。 秋三はにやにや笑いながら、・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫