・・・印刷所では、鷹のような眼をした熟練工が、なんの表情も無く、さっさと拙稿の活字を拾う。あの眼が、こわい。なんて下手くそな文章だ。嘘字だらけじゃないか、と思っているに違いない。ああ、印刷所では、私の無智の作品は、使い走りの小僧にまで、せせら笑わ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ 小林は、秋山よりも、もっと熟練工であった。だから、彼とても特別に急ぐような、見っともない事はしない。だが、「少し悠くりしすぎる」と思わずにはいられなかった。「おい。もう、半分燃えてるぞ!」 と、小林はすぐ後ろから、秋山へ喚いた・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養成、再教育をしている中には、専門学校出の若い婦人を新たに機械工業のための製図師として再教育している実例もある。臨時工・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 五箇年計画で、各生産部分には熟練工が足りなくなった。一九二八年には百十万人もあった失業者を全部吸収したが、それでもまだ足りない。工場によっては苦しまぎれに、賃銀をよくして労働者を集めようとする。そこで、一九三〇年の冬に大清算された「飛・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・七番 十五年二十年の勤続、熟練工が多い。 中々まとめ難い。 ○五工 は家庭器具で一 二 三階とも工人密集して働き、年が若く、女が多い。現在1割「××モーター」三百名ほどまとまり、十銭の会費完納。一部でヒ行器のエンジ・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・ ロシア共産党は大会において、生産組合、労働組合は直接工場、学校、農場で、技術家、熟練工養成のために、あらゆる支持を与えている。 五ヵ年計画が着手された当時、最高経済会議の調査によると、熟練工、不熟練工の比率はこうだった。熟・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・質のよい熟練工、技術家、専門家としてきっちりソヴェト生産の中軸的活動者となっている。或る産業に永年従事するものの特別な気持。階級闘争の現実的な経験。五ヵ年計画実現に関連して、或る産業に従事する労働者の独特な生活に起った独特な社会的変化などは・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 全国工場災害率をみると、例年の最高は機械器具であって、十一年八月を一〇〇とすると、十四年一四五と災害が飛躍していて、このことは、尨大な数の不熟練工とその中に加わった娘たちの災難とを語っているのだと思う。しかも、怪我したりする年齢がこれ・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・都会の工場労働者は、大人になった熟練工よりも、青年工を使った方が賃銀が安いということから、いつも青年労働者を多く使う。または女を使う。 このあいだ政府はインフレの物価騰貴につれて最低賃銀の基底を公表した。若い人々はあれをみて何を感じたで・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・だからいろいろなクラブの研究会や、文盲撲滅研究会、実際に工場に於ける熟練工に自分をすること、そういうことは非常に熱心にやっている。で第一ソヴェトでは男も女も同じ労働に対して同じ賃銀を払う。同じ賃銀を払うということは同等の技術を要する。だから・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫