・・・妻の勤労のお蔭で一冬分の燃料にも差支ない準備は出来た。唯困るのは食料だった。馬の背に積んで来ただけでは幾日分の足しにもならなかった。仁右衛門はある日馬を市街地に引いて行って売り飛ばした。そして麦と粟と大豆とをかなり高い相場で買って帰らねばな・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・縄屑やゴミは燃料になるので、土がまじらぬように、そっと掃かないと叱られる。旦那は藁一筋のことにでも目の変るような人だった。掃除が終っても、すぐごはんにならず、使いに走らされる。朝ごはんの前に使いに遣ると、使いが早いというのです。その代り使い・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・電燈会社が一割の配当をつゞけるため、燃料で誤魔化しをやっているのだった。 芝居小屋へ活動写真がかゝると、その電燈は息をした。 ふいに、強力な電燈を芝居小屋へ奪われて、家々の電燈は、スッと消えそうに暗くなった。映写がやまると、今度は、・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・同日午後五時に、山本伯の内閣が出来上り、それと同時に非常徴発令を発布して、東京および各地方から、食料品、飲料、薪炭その他の燃料、家屋、建築材料、薬品、衛生材料、船その他の運ぱん具、電線、労務を徴発する方法をつけ、まず市内の自動車数百だいをと・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・またよくかき廻して丁度になっていても、一方で燃料が唸って燃え上がっているのでは這入っているうちにすぐに猛烈に熱くなって来るから工合が悪い。これらも少し科学的に頭を使ってやれば、燃料が燃え切った頃にだいたい丁度になるようにするくらいは、何でも・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・しかもその家が、火事を起し蔓延させるに最適当な燃料で出来ていて、その中に火種を用意してあるのだから、これは初めから地震に因る火災の製造器械を据付けて待っているようなものである。大火が起れば旋風を誘致して焔の海となるべきはずの広場に集まってい・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 地震があればこわれるような家を建てて住まっていれば地震の時にこわれるのはあたりまえである、しかもその家が、火事を起こし蔓延させるに最適当な燃料でできていて、その中に火種を用意してあるのだから、これは初めから地震に因る火災の製造器械をす・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それはとにかく、よほど用心しないと、デパートというものは世にも巧妙な大量殺人機械になる恐れが充分にある。燃料を満載してある上に、しかも発火すると同時に出口が人間で閉塞し、その生きた栓が焼かれる仕掛けになっているからである。山火事の場合は居合・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・大きな炎をあげて燃え上がるべき燃料は始めから内在しているのである。これに反してたとえば昔の漢学の先生のうちのある型の人々の頭はいわば鉄筋コンクリートでできた明き倉庫のようなものであったかもしれない。そうしてその中に集積される材料にはことごと・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・限定され、そのために強度を高められた電気火花のごとき効果をもって連想の燃料に点火する役目をつとめるのがこれらの季題と称する若干の語彙である。 有限な語彙の限定は形式の限定と同様往々俳句というものの活動の天地を限定するかのような錯覚を起こ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫