・・・という奇妙な映画で、台湾の物産会社の東京支店の支配人が、上京した社長をこれから迎えるというので事務室で事務成績報告の予行演習をやるところがある。自分の椅子に社長をすわらせたつもりにして、その前に帳簿を並べて説明とお世辞の予習をする。それが大・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 二 製陶実演 三越へ行ったら某県物産展覧会というのが開催中であって、そこでなんとか焼きの陶器を作る過程の実演を観覧に供していた。回転台の上へ一塊の陶土を載せる。そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・外国商売の事あり、内国物産の事あり、開墾の事あり、運送の事あり、大なるは豪商の会社より、小なるは人力車挽の仲間にいたるまで、おのおのその政を施行して自家の政体を尊奉せざる者なし。かえりみて学者の領分を見れば、学校教授の事あり、読書著述の事あ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・一身一家の不始末はしばらくさしおき、これを公に論じても、税の収納、取引についての公事訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その有様を知らんとするにも、人民の間に帳合法のたしかなる者あらざれば、暗夜に物を探るが如くにして、これに寄つ・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・一、二の例をいうて見ると、山水の景勝を書くのを目的としたものや、地理地形を書くことを目的としたものや、風俗習慣を書くことを目的としたものや、あるいはその地の政治経済教育の有様より物産に至るまで細かに記する事を目的としたもの、あるいは個人的に・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・ 郷土的な物産にしろ、それならばそれぞれの地方で一般の人たちがそういう製作品の味いで日常生活を特色づけ豊かにしているかと云えば、今日ではその地方を潤す色彩としてよりも、寧ろ郷土物産として都会へ売り出される目的でつくられる方が多いだろう。・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・年一度、遠くペルシャやアルメニヤ、コーカサス辺から迄地方物産を集めて開かれる世界に有名な定期市で、謂わばニージニという町全体が生きていた。田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 明治二十年ごろまでの世の中は面白くて、明治大帝の東北御巡幸のとき久留米開墾の爺さんが、何の珍らしいものもないが、これは近来の出色の物産として三尺ばかりの大根を一本三宝にのせて御覧に入れた。そして、おほめの言葉を頂いた。 そんなに貧・・・ 宮本百合子 「村の三代」
・・・もと飫肥外浦の漁師であったが、物産学にくわしいため、わざわざ召し出されて徒士になった男である。お佐代さんが茶を酌んで出しておいて、勝手へ下がったのを見て狡獪なような、滑稽なような顔をして、孫右衛門が仲平に尋ねた。「先生。只今のはご新造さ・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫