・・・大阪弁というものは語り物的に饒舌にそのねちねちした特色も発揮するが、やはり瞬間瞬間の感覚的な表現を、その人物の動きと共にとらえた方が、大阪弁らしい感覚が出るのではなかろうか。大阪弁は、独自的に一人で喋っているのを聴いていると案外つまらないが・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・し笑味を含ませて、「何となれば、女は欠伸をしますから……凡そ欠伸に数種ある、その中尤も悲むべく憎くむ可きの欠伸が二種ある、一は生命に倦みたる欠伸、一は恋愛に倦みたる欠伸、生命に倦みたる欠伸は男子の特色、恋愛に倦みたる欠伸は女子の天性、一・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・むしろさかんな注文を出して、立派な、特色のある娘たちを産み出してもらいたいものだ。 イギリスの貴族の青年は祖国の難のあるとき、ぐずぐずしていると、令嬢たちに卑怯を軽蔑されるので、勇んで戦線におもむくといわれている。おどらぬ男には嫁に行か・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・彼は、――彼とは栗島という男のことだ――、特色のない、一兵卒だった。偽せ札を作り出せるような気の利いた、男ではなかった。自分でも偽せ札を拵えた覚えはなかった。そういうあやしい者から五円札を受取った記憶もなかった。けれども、物をはねとばさぬば・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・もしそれ、中国にいたっては、冤枉の死刑は、ほとんどその五千年の歴史の特色の第一ともいってよいのである。 こう見てくれば、死刑は、もとより時の法度にてらして課されたものが多くをしめているのは、論のないところだが、なんびとかよく世界万国有史・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・殊にサイコロジカルな処が、外の人達と違った特色であると思う。『鬼心非鬼心』という文章は、寺の借住居の附近にあった事を、主にして書いたものだ。それから、麻布霞町の方へ移って、山羊なぞを飼って見た事もあったが、これには余程詩人風の空想が混ってい・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・読書の撰定に特色がある。明治初年の、佳人之奇遇、経国美談などを、古本屋から捜して来て、ひとりで、くすくす笑いながら読んでいる。黒岩涙香、森田思軒などの、飜訳物をも、好んで読む。どこから手に入れて来るのか、名の知れぬ同人雑誌をたくさん集めて、・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ この都に大勢いる銀行員と云うものの中で、この男には何の特色もない。風采はかなりで、極力身なりに気を附けている。そして文士の出入する珈琲店に行く。 そこへ行けば、精神上の修養を心掛けていると云う評を受ける。こう云う評は損にはならない・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・そのころの青年でも、もう私の青年時代とは、よほど異った特色やらタイプやらを持っていたから……。『明星』にあこがれた青年、なかばロマンチックで、ファンタスチックで、そしてまだ新しい思潮には到達しない青年の群れ――その群れを描くことについては、・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・従来の猛獣映画に比べて多少の特色はあるようである。見えすいた芝居が比較的少ないので、見ていて気持ちがよく、退屈しなくてすむ。 象が人間に使われて実によく命令を聞き、見かけに似合わず小まめに仕事をする。あれほど利口なこの動物がどうして人間・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫