・・・を養成するの機関となるのである、欧風の晩食と日本の茶の湯と、全然同じでないは云うまでもないが、頗る類似の点が多いと聞いて、仮りに対照して云うたまでなれど、彼の特美は家庭的日常時な点にある、茶の湯の特長は純詩的な点にある、趣味の点より見れ・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・これは無論笑談であるが彼の真意は男女の特長の差異を認めるにあるらしい。モスコフスキーはこれを敷衍して「婦人は微分学を創成する事は出来なかったが、ライプニッツを創造した。純粋理性批判は産めないが、カントを産む事が出来る」と云っている。 話・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・これらは発声映画と無声映画との特長をそれぞれ充分に把握した上で、巧みに臨機にそれを調合配剤しているものと判断されることはたしかである。しかしこのような見え透いた細工だけであれほどの長い時間観客を退屈させないでぐいぐい引きずり回して行くだけの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・実物を見たのでは到底発見することのできないものを発見させるところに映画の特長があるのではないか。たとえばわれわれが自身でライオン狩りの現場に臨んだとしたら、どうして草原のそよぎなどを味わうことができるであろうか。殺されて行く獅子を哀れむ心を・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・しかし人間の耳には不思議な特長があって、目の場合には望まれない選択作用が行なわれる。すなわち雑多な音の中から自分の欲する音だけを抽出して聞き分ける能力を耳はもっている。音楽家が演奏をしている時に風や雨の音、時には自分の打っているキーの不完全・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・芭蕉の名匠であったゆえんは極端から極端までちがった個性の特長を正当に認識して活躍させた点にあるので、統率者の死後これらが四散しけんかを始めたのはやはり個性のはなはだしい相違から来るのである。 この共同制作が可能であり、また共同によって始・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・流しの鉛管をつまらせる事は日本人の特長であるらしい。 看護婦が手押車に手術器械薬品をのせたのを押して行く。西日が窓越しに看護婦の白衣と車の上のニッケルに直射する。見る目が痛い。手術される人はそれがなお痛いことであろう。 病院で手術し・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・けれども一線一画の瞬間作用で、優に始末をつけられべき特長を、とっさに弁ずる手際がないために、やむをえず省略の捷径を棄てて、几帳面な塗抹主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしても免れがたい。 子規は人間として、また文学者として、最・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・このうちから東洋にのみあって、西洋の美術には見出し得べからざる特長を観得する事が出来るならば、たといその特長が全体にわたらざる一種の風致にせよ、観得し得ただけそれだけその人の過去を偉大ならしむる訳である。従ってその人の将来をそれだけインスパ・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・ 一、民主的な社会で、大切なのは多数の人々の意見であり、多数の人々が自分の意見を出し合って、その結論を互に出発したところよりは高く豊富で合理的なところに育ててゆくのが大事な特長です。 一、輿論というと、むずかしく思えるけれども、誰で・・・ 宮本百合子 「朝の話」
出典:青空文庫