・・・それがどういう感情であるかと問われると私にも分らないが、しかし例えばある神性と同時にある狂暴性を具えた半神半獣的のビーイングの歓喜の表現だと思って見ると、そう思えない事はない。 私は遠い神代のわが大八洲の国々の山や森が、こういう神秘的な・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ この問題に対してなんらかの判断を下しうるためにはまず第一に動物特に象の精神病に関する充分な学識が必要であり、第二にはこの象が狂気と認められるに至った狂暴な行為に関する正確な記録の知識が必要である。第三には彼がそういう行為にいずるに至っ・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・伝聞く北米合衆国においては亜米利加印甸人に対して絶対に火酒を売る事を禁ずるは、印甸人の一度酔えば忽ち狂暴なる野獣と変ずるがためである。印甸人の神経は浅酌微酔の文明的訓練なきがためである。修養されたる感覚の快楽を知らざる原始的健全なる某帝国の・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ラクシャンの狂暴な第一子も少ししずまって弟を見る。「まあいいさ、お前もしっかり支度をして次の噴火にはあのイーハトブの位になれ。十二ヶ月の中の九ヶ月をあの冠で飾れるのだぞ。」若いラクシャン第四子は兄のことばは聞きながし・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ヨーロッパの天地は再び震撼しはじめているが、この前のように盲目の狂暴に陥るまいとする努力は到るところに見られており、男に代って社会活動の各部署についた婦人たちも、二十五年昔よりは高められている技能とともに単純なヒロイズムにのぼせていないもの・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・然し一九三四年という年は二月のパリ騒擾事件におけるファシストの狂暴を契機として、フランス思想界に、左右の対立が歴然表面化した時であった。反ファシズム団体が政治的に結合したばかりでなく、文化を擁護するためにフランスの思想家、作家が反ファシスト・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 戦争で日本を破滅させた狂暴な権力は、こうして、一様に、純文学も大衆文学も潰してしまった。すべての人民が焼野の上に新しい民主日本をうち立てなければならなくなった。すべての人民が自分たちが主人となっての新生活を建設してゆくにふさわしい、自・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・尾崎秀実氏とその国際的な同志たちとは、日本の軍事権力が最後ののたうちで最も悪逆になり狂暴となったその時期の犠牲であったのである。 非道な力は終焉に瀕している、それだからこそ国際的な民主主義者の生命を奪うようなことさえせざるを得なくなって・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・奴等の小屋が幸地続きだったから、幾分都合はよかったものの、蒔いた呪咀の種と、狂暴の酵母の多さ! 俺もよく破産しなかったものだ。ヴィンダー 滅多なことには驚かない俺も、あの時許りは目を瞠った。人間共に未来を見せず、奴等の悦ぶ思弁にこじつけ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・恐ろしく狂暴な自然に抗しながら、健気に良人を扶けて、家を守り、殆ど生命を賭して子を育てる女性に対して、如何なる男性が侮蔑の声を発せられましょう。 一朝、野蛮人の襲撃に会えば、彼等は、只、彼等の団結によってのみその敵を防がなければならない・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫