・・・日本の伝統的小説は可能性を含まぬという点で、狭義の定跡であるが、外国の近代小説は無限の可能性を含んでいる故、定跡化しない。「可能性の文学」はつねに端の歩が突かれるべき可能性を含んでいるのである。もっとも、私は六年前処女作が文芸推薦となった時・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・もっとも、こう言ったからとて、私は西鶴を狭義の大坂人という範疇の中にせばめる積りはない。私にとって、大阪人とは地理的なものを意味しない。スタンダールもアランも私には大阪人だ。すこし強引なようだが、私は大阪人というものをそのように広く解してい・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・必ずしも直接な狭義の美ではない。ただそれが真であることによって、そこに間接な広義の美が現われるように思う。科学の目的もただ「真」である。そして科学者にとってはそれが同時に「美」であり得る。 漫画が実物に似ていないにかかわらず真の表現であ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・社会生活の質が変って来ていることから読者大衆と作家との関係が、従前のロシアのように、また現に他の諸国の事情がそうであるように、文化的水準で隔離されたものでなくなって来て、狭義での批評家の批評と作家とのいきさつが今日では変化していることなどが・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫