・・・それゆえたちまち狼藉者を数馬と悟ったかとも思いまする。」「するとそちは数馬の最後を気の毒に思うて居るのじゃな?」「さようでございまする。且はまた先刻も申した通り、一かどの御用も勤まる侍にむざと命を殞させたのは、何よりも上へ対し奉り、・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・ 余り唐突な狼藉ですから、何かその縁組について、私のために、意趣遺恨でもお受けになるような前事が有るかとお思われになっては、なおこの上にも身の置き処がありませんから――」 七「実に、寸毫といえども意趣遺恨はあ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・と洞穴の奥から幽に、呼ぶよう、人間の耳に聞えて、この淫魔ほざきながら、したたかの狼藉かな。杖を逆に取って、うつぶしになって上口に倒れている、お米の衣の裾をハタと打って、また打った。「厭よ、厭よ、厭よう。」と今はと見ゆる悲鳴である。「・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声、狼毒、狼狠、狼顧、中山狼、狼、狼貪、狼竄、狼藉、狼戻、狼狽、狼疾、狼煙など、めでたきは一つもなき唐山のためし、いとおかし。いわゆる御狗・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・午後、我がせし狼藉の行為のため、憚る筋の人に捕えられてさまざまに説諭を加えられたり。されどもいささか思い定むるよし心中にあれば頑として屈せず、他の好意をば無になして辞して帰るやいなや、直ちに三里ほど隔たれる湯の川温泉というに到り、しこうして・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・ 今朝方、暁かけて、津々と降り積った雪の上を忍び寄り、狐は竹垣の下の地を掘って潜込んだものと見え、雪と砂とを前足で掻乱した狼藉の有様。竹構の中は殊更に、吹込む雪の上を無惨に飛散るの羽ばかりが、一点二点、真赤な血の滴りさえ認められた。・・・ 永井荷風 「狐」
・・・花見の客の雑沓狼藉は筆にも記しがたし。明治三十三年四月十五日の日曜日に向嶋にて警察官の厄介となりし者酩酊者二百五人喧嘩九十六件、内負傷者六人、違警罪一人、迷児十四人と聞く。雑沓狼藉の状察すべし。」云 わたくしはこれらの記事を見て当時の向・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・飛鳥山の花見をかく、踊ったり、跳ねたり、酣酔狼藉の体を写して頭も尾もつけぬ。それで好いつもりである。普通の小説の読者から云えば物足らない。しまりがない。漠然として捕捉すべき筋が貫いておらん。しかし彼らから云うとこうである。筋とは何だ。世の中・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・近頃女権拡張論者と云ったようなものがむやみに狼藉をするように新聞などに見えていますが、あれはまあ例外です。例外にしては数が多過ぎると云われればそれまでですが、どうも例外と見るよりほかに仕方がないようです。嫁に行かれないとか、職業が見つからな・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・啻に自身の不利のみならず、男子の醜行より生ずる直接間接の影響は、延て子孫の不幸を醸し一家滅亡の禍根にこそあれば、家の主婦たる責任ある者は、自身の為め自家の為め、飽くまでも権利を主張して配偶者の乱暴狼藉を制止せざる可らず。吾々の勧告する所なり・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫