・・・と言ってしまっても、どこやら耳あたらしい一理窟として通る。献身とか謙譲とか義侠とかの美徳なるものが、自分のためという慾念を、まるできんたまかなにかのようにひたがくしにかくさせてしまったので、いま出鱈目に、「自分のため」と言われても、ああ慧眼・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 種々のゆがみをもちつつ、献身的な努力でともかく今日まで押しすすめられて来た運動の段階にあって、私たちは大きい成果の上に生きていると思う。 時間的に四五年といえば短かいがその間急速に激化した闘争は、広い範囲で運動内における女の活動家・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・衣、食、住、愛憎の問題だけを見ても、戦争中は、人間的な欲求の一切を抹殺した権力によって、そういうテーマは、すべて自然の文明的な主張をかくし、軍国主義への献身だけが強調された。小説にしろ、そうだった。大衆のこのみは、そこに追いこまれ、すべての・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・文学の創造というものが真実人類的な美しい能動の作業であるならば文学に献身するというその人の本性によって、人類、社会が合理的に発展前進しようとする活動に共働しないではいられない。創造そのものがきのうの自分から生きぬけて明日にすすむことでしかな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ やがて、第一次ヨーロッパ大戦にまきこまれたジャックが、どういう風に国際的な資本主義経済の自己撞着と戦争の矛盾を発見し、彼のヒューマニティーに立って社会歴史の発展に対する情熱に献身するか、それは、わたしたちの前にまだ日本訳としてあらわれ・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 看護婦というと、日本のこれまでの感情では何となしあらゆる困難に対して献身的で犠牲の精神にしたがっている人々であり、おとなしくやさしく患者のたのみをきく人ばかりを期待しているようです。しかし、看護婦は、どういう場合にも病人の犠牲となるも・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・民主なる文学ということは、私たち一人一人が、社会と自分との歴史のより事理にかなった発展のために献身し、世界歴史の必然な働きをごまかすことなく映しかえして生きてゆくその歌声という以外の意味ではないと思う。 そして、初めはなんとなく弱く、あ・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・こまかいさまざまの辛苦が、大町さんの誠実な人柄のうちにうけいれられ、こなされ、選択され、方向をととのえ、明日の日本のよりよい生活の建設のために献身する女性として、十分の厚みと、暖かさと、がんばりとなって来ている。人柄のよさというなかに、大町・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・文化的な仕事に才能を生きぬき、その向上のために献身するために、現在の日本の婦人はどんな社会的条件におかれていたかということが主として話題となった。日本では女のひとの立場は困難をどっさり負わされているという点が誰の注目をもひいて、語られていた・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・「このような精力と熱情をもち、戦友に対してこれほどの献身をもつ婦人が、四十年近い間に運動のために尽した業績――このことは何びとも語らず、この事は同時代の新聞にも記録されていない。しかし私は知っている。コンミューン亡命者の婦人達がしば・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫