・・・寺院の堂塔が王朝時代の建築を代表するように、封建時代を表象すべき建築物を求めるとしたら天主閣を除いて自分たちは何を見いだすことができるだろう。しかも明治維新とともに生まれた卑しむべき新文明の実利主義は全国にわたって、この大いなる中世の城楼を・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・かなしくて美しいものの為に、フランスのロマンチックな王朝をも、また平和な家庭をも、破壊しなければならないつらさ、その夫のつらさは、よくわかるけれども、しかし、私だって夫に恋をしているのだ、あの、昔の紙治のおさんではないけれども、 女房の・・・ 太宰治 「おさん」
・・・こんなお皿が、二つも三つも並べられて食卓に出されると、お客様はゆくりなく、ルイ王朝を思い出す。まさか、それほどでもないけれど、どうせ私は、おいしい御馳走なんて作れないのだから、せめて、ていさいだけでも美しくして、お客様を眩惑させて、ごまかし・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・往古、我が王朝の次第に衰勢に傾きたるも、在朝の群臣、その内行を慎まずして私徳を軽んじ、内にこれを軽んじて外に公徳の大義を忘れ、その終局は一身の私権、戸外の公権をも併せて失い尽したるものならんのみ。されば今日の政治家が政事に熱心するも、単に自・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・として万葉王朝時代の文化の讚美をおこなった。そのことは、こんにちの亀井勝一郎のジャーナリズムでの活躍の本質と決して無縁なものではない。日本の現代文学の中になにかの推進力として価値あるものをもたらした人々は、北村透谷、二葉亭四迷、石川啄木、小・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・優婉な紫の上が光君と一緒に、周囲の女性たちにおくる反物を選んでいるところはあるけれど、落窪物語はやはり王朝時代に書かれた物語ではあるけれども、ここに描かれている人たちは源氏物語のように時代にときめく藤原の大貴族たちではない。貴族でも貧乏貴族・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・にしろ、芥川龍之介が王朝の画匠や曲亭馬琴を主人公としてその作を書いたのは、決して所謂歴史小説を書こうためではなかった。人物と時代とを過去にかりて、テーマは作者自身の現実生活に横わっている芸術上の勇猛心を描こうと試みたものであり、或は文学にお・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・しかし、日本文学全体の歴史を通じて庶民の文学であるというのは明らかな無理である。王朝時代の記録は、文学の優れた作家の生涯についてさえ、その人々が高貴な御方でなければ詳述していない。紫式部の伝記を満足するように書けない原因は、この当時の記録の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・三年前の文芸復興の声につれて、日本におこったロマン派、現在保田与重郎氏等によって提唱されている日本ロマン派が、素朴に過去へ飛躍して、ギリシア文化や万葉の文化、王朝文化を云々することが現実の文化を逆に引戻す作用をしていることが意味されているの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・古代エジプトの文化のある種のものなどはエジプトの王朝が亡びると共に亡びた。今日有名なピラミッドや、スフィンクスが、何故、あの砂漠の真中に打ちたてられたろうか? 古代のエジプトの王が、全人民を奴隷として働かし得たからこそ、あの巨大なピラミッド・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫