・・・「これは珍品ですね。が、何だかこの顔は、無気味な所があるようじゃありませんか。」「円満具足の相好とは行きませんかな。そう云えばこの麻利耶観音には、妙な伝説が附随しているのです。」「妙な伝説?」 私は眼を麻利耶観音から、思わず・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・この趣味に附帯して生ずる不純な趣味としては、かような珍品をどこからか掘出して来て人に誇るという傾向も見受けられる。この点において骨董趣味はまたいわゆる蒐集趣味と共有な点がある。マッチの貼紙や切手を集めあるいはボタンを集め、達磨を集め、甚だし・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・三斎公聞召され、某に仰せられ候はその方が申条一々もっとも至極せり、たとい香木は貴からずとも、この方が求め参れと申しつけたる珍品に相違なければ大切と心得候事当然なり、総て功利の念を以て物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・松向寺殿聞召され、某に仰せられ候は、その方が申条一々もっとも至極なり、たとい香木は貴からずとも、この方が求め参れと申つけたる珍品に相違なければ、大切と心得候事当然なり、総て功利の念をもて物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやそ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫