・・・この小品は気分本位の夢幻的なものであって、必ずしも現行の法令に準拠しなければならない種類のものでもないし、少なくも自分の主観の写生帳にはちゃんと青い燈火が檣頭にかかったように描かれているから仕方がないと思ったのである。 去年の暮には、東・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・如何となれば現行法律の旨に背くが故なり。其れも小説物語の戯作ならば或は妨なからんなれども、家庭の教育書、学校の読本としては必ず異論ある可し。然らば即ち今日の女大学は小説に非ず、戯作に非ず、女子教育の宝書として、都鄙の或る部分には今尚お崇拝せ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・同じ人が僅か四五年の後に進んで現行勢力の下位に文学を置こうとすることは理解に困難である。 室生犀星氏が近衛公や一部の顕官に逢い、一夕文学談を交したことで、軍人、官吏も文学を理解しようとする誠意を持っていると感激し、庶民出生の長い艱難多か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・検事側の主張するB証人の内容が正しいのであれば、証人A、すなわち被告側に有利な証言を法廷において述べた者は、これを偽証罪の現行犯として直ちに逮捕することができる。また現在こうしなければ非常に危険である。第二として法廷における証人尋問に対して・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・今国内に現行している文章の作者がこれを形って居るのであろう。予の居る所の地は、縦令予が同情を九州に寄することがいかに深からんも、西僻の陬邑には違あるまい。予は僅に二三の京阪の新聞紙を読んで、国の中枢の崇重しもてはやす所の文章の何人の手に成る・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫