・・・もし又ランニングを学ばないものに駈けろと命ずるものがあれば、やはり理不尽だと思わざるを得まい。しかし我我は生まれた時から、こう云う莫迦げた命令を負わされているのも同じことである。 我我は母の胎内にいた時、人生に処する道を学んだであろうか・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・宗教がなくてもいいということが理不尽なのは、この第一義がなくてもいいということになるからだ。この第一義が決定することを「生死をはなれる」というのだ。 この第一義がきまると、いろいろな心の働きがその心境からおのずと出てくる。目は英知に輝き・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・この公務を取扱う人を名づけて政府の官員または会社の役員といい、この官員の理不尽に威張るものを名づけて暴政府といい、役員の理不尽に威張るものを暴会社という。即ち民権の退縮して専制の流行することなり。 今前条に示したる家内に返りてこれを論ぜ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・われわれ人民が、理不尽な暴力で導きこまれた肉体と精神との殺戮が、旧支配力の敗退によって終りを告げ、ようやく自分たち人間としての意識をとりもどし、やっとわが声でものをいうことができる世の中になったことをよろこばない者がどこにあろう。日本は敗戦・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ しかし、四月十日にきめられている今度の選挙は、私たちに、どんな心もちを抱かせているだろうか。少くとも、これについて無関心ではいられないものが、私たちの生活全体の事情から湧き上って来ている。 理不尽な戦争を遂行させられて、日本の人民・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・戦争を強行するためには、すべての人民が、理不尽な強権に屈従しなければ不便であった。その目的のために、考え、判断し、発言し、それに準じて行動する能力を奪った。外的な一寸した圧力に、すぐ屈従するように仕つけた。無責任に変転される境遇に、批判なく・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・真摯な若い心に、戦争の理不尽と幻滅とは、どのように映ったか、しかも猶これらの若者達が、名状すべからざる困難な日々の中に、自分達の経験をかみしめ、それを記録して行った姿は、深く心をうつものがある。 日本で、戦争中、どれだけ沢山の有能な若者・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫