一 世間ではもちろん、専門の学生の間でもまたどうかすると理学者の間ですら「相対性原理は理解しにくいものだ」という事に相場がきまっているようである。理解しにくいと聞いてそのためにかえって興味を刺激される人・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・しかし私の知れる範囲内では、蓄音機レコードの製造工場へ聘せられて専心その改良に没頭している理学士は一人もないようである。もっともこれは別に蓄音機のみに関した事ではない。当然専門の理学士によってのみ初めてできうべき器械類が、そういう人の手によ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
一 ドイツの若い物理学者のLというのがせんだって日本へ遊びに来ていた。数年前にも一度来たことがあるのでだいぶ日本通になっている。浮世絵などもぽつぽつ買い込んで行ったようである。このドイツ人がある日俳句を作っ・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・やむすこのような自由意志を備えた存在でもなく、主としてセリュローズと称する物質が空気中で燃焼する物理学的化学的現象であって、そうして九九プロセントまでは人間自身の不注意から起こるものであるというのは周知の事実である。しかし、それだから火事は・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
物理学は元来自然界における物理的現象を取り扱う学問であるが、そうかと言って、あらゆる物理的現象がいつでも物理学者の研究の対象となるとは限らない。本来の意味では立派に物理的現象と見るべき現象でも、時代によって全く物理学の圏外・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・しかしその物理学の内容はちょっと吾人の想像し難いようなものに相違ない。たとえば吾人の時間に対する観念の源でも実は吾人の視覚に負うところがはなはだ多い。日月星辰の運行昼夜の区別とかいうものが視覚の欠けた人間には到底時間の経過を感じさせる材料に・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・これがここに紹介しようとする物理学者レーリー卿の祖父である。勲功によって貴族に列せられようという内意があったが辞退したので、爵位はその夫人に授けられ、夫人からその一人息子の John James Struttに伝えられた。これが最初の Lo・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・テクニックの上皮だけをひとわたり承知しただけで、すっかりラディオ通になってしまったいわゆるファンが、電波伝播の現象を少しも不思議と思ってみる事もなしに、万事をのみこんだ顔をしているのがおかしいと言った理学者がある。しかし考えてみると理学者自・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・池田君は理学者だけれども、話して見ると偉い哲学者であったには驚いた。大分議論をやって大分やられた事を今に記憶している。倫敦で池田君に逢ったのは、自分には大変な利益であった。御蔭で幽霊の様な文学をやめて、もっと組織だったどっしりした研究をやろ・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・ (我が輩かつていえらく、打候聴候は察病にもっとも大切なるものなれども、医師の聴機穎敏ならずして必ず遺漏あるべきなれば、この法を研究するには、盲人の音学に精 ひとり医学のみならず、理学なり、また文学なり、学者をして閑を得せしめ、また・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫