・・・社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費す。三ヶ月終りて、地理書または窮理書一冊を読む。この間、六ヶ月を費す。六ヶ月終りて、歴史一冊を読む。この間、また、六ヶ月を費す。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
ある人いわく、慶応義塾の学則を一見し、その学風を伝聞しても、初学の輩はもっぱら物理学を教うるとのこと、我が輩のもっとも賛誉するところなれども、学生の年ようやく長じて、その上級に達する者へは、哲学・法学の大意、または政治・経・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・すると気象台の風力計や風信器や置いてある屋根の上のやぐらにいつでも一人の支那人の理学博士と子供の助手とが立っているんだ。 博士はだまっていたが子供の助手はいつでも何か言っているんだ。そいつは頭をくりくりの芥子坊主にしてね、着物だって袖の・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分は何も個人的に知ってはおりません。 た・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 昔、三宅やす子という文筆家があった。理学博士の夫人であったが、良人の死後、自分が未亡人という名で扱われることに抗議して未亡人論を書いた。封建のしきたりによって、社会的に活動しようとする婦人まで、良人の死後は「未だ亡くならない人」と・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・であり、他の一つは、理学博士、医学博士というようなひとの夫人の一部によってこしらえられた「断種協会」である。 女ばかりの株式会社は、要するに御亭主の支店のようなものであり、女の細心で儲けて見せますというたちのものである。大阪辺では女ばか・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・東京化学製造所長になって、二十五年の間に、初め基礎の危かった工場を、兎に角今の地位まで高めた理学博士増田翼はかく信じているのである。 製造所の創立第二十五年記念の宴会が紅葉館で開かれた。何某の講談は塩原多助一代記の一節で、その跡に時代な・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・子供は Physique より Mメタフィジック に之くのである。理学より形而上学に之くのである。 僅か四五ペエジの文章なので、面白さに釣られてとうとう読んでしまった。 その時戸をこつこつ叩く音がして、戸を開いた。ロダンが白髪頭をの・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫