・・・これは人間の独裁的な支配を憎んだのですが、人間の社会に於て、貧しい者と富める者と、あることは、ある程度まで、仕方のないことゝしても、全く食うに欠け、着るに物がないとしたら、それは、自然の理法を誤っていることであって、組織の罪に帰さなければな・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・そして今や現実の世界を遠く脚下に征服して、おもむろに宇宙人生の大理法、恒久不変の真理を冥想することのできる新生活が始ったのだと、思わないわけに行かないのであった。 彼は慣れぬ腰つきのふらふらする恰好を細君に笑われながら、肩の痛い担ぎ竿で・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・これが唯だ源因結果の理法に過ないと数学の式に対するような冷かな心持で居られるものでしょうか。生の母は父の仇です、最愛の妻は兄妹です。これが冷かなる事実です。そして僕の運命です。 若し此運命から僕を救い得る人があるなら、僕は謹しんで教を奉・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・ 彼は世界と人倫との究竟の理法と依拠とを求めずにはいられなかった。当時の学問と思想との文化的所与の下に、彼がそれを仏法に求めたのは当然であった。しかし仏法とは一体何であろう。当時の仏教は倶舎、律、真言、法相、三論、華厳、浄土、禅等と、八・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・すなわち理法によって他の承諾を強要する。民族的反感からは信用したくない人でも、論理の前には屈伏しなければならない事を知っているから。」こう云ったニーチェのにがにがしい言葉が今更に強く吾々の耳に響くように思われる。 彼の学校成績はあまりよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・種族の保存上必要な天然の経済理法によるものかもしれない。人間の場合にこの理法がどういうふうに適用されるものか、それはわからない。しかし、妻子を食わせるために犠牲になって枯死する人間の多いことだけは事実である。しかし、結局人間でも昆虫でも植物・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・それともまたこのようなものを作りあげるに必要な秩序や理法が人間の方に備わっているので、われわれはただ自己の内にある理法の鏡に映る限りにおいて自己以外と称するものを認めるのであろうか。これは六かしい問題である。そして科学者にとっても深く考えて・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・これはどうする事もできない自然の理法であろう。愛憎はよくないと言って愛憎のない世界がもしあったらそれはどんなにさびしいものかもわからない。 子猫はそれぞれもらわれて行った。太郎はあるデパートメントストアーへ出ているという夫婦暮らしの家へ・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・天地自然の理法は頗妙である。コノ稿ハ昭和七年三月三十日正宗白鳥君ノ論文ヲ読ミ燈下匆々筆ヲ走ラセタ。ワガ旧作執筆ノ年代ニハ記憶ノ誤ガアルカモ知レナイ。好事家ハ宜シク斎藤昌三氏ノ『現代日本文学大年表』ニ就イテコレヲ正シ給エトイウ。・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・性質として、運命に対する人間精神の積極な働きかけに立つものであるから、かりにも文学に従う上はあらゆる作家の芸術的モティーヴが歴史の消耗力に向って、消耗され尽さざらんと欲する心情に根ざしているのは自然の理法と云わなければなるまい。その芸術必然・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
出典:青空文庫