・・・ 過去のいかなる時代に於ても、真の芸術は理解する人達にしか求められなかった。それは、むしろ自然であります。そう一人の作家が多くの読者を有するものでなく、また、そう真面目な芸術が多くの人々に容易に理解されるものでもないのは、不思議ではあり・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・いては、かねがね伝統的な定説というものが出来ていて、大阪人に共通の特徴、大阪というところは猫も杓子もこういう風ですなという固着観念を、猫も杓子も持っていて、私はそんな定評を見聴きするたびに、ああ大阪は理解されていないと思うのは、実は大阪人と・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・そこでの講義は高遠であり、私のような学識のない者は到底その講義を理解することが出来ぬだろうと真面目に信じていたのである。それ故私は卒業の日が近づいて来ると、にわかに不安になり、大学へはいるのはもう一年延ばした方がいいのではなかろうか、もう一・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ 父の生活を理解してくれ――いつの場合でも私はしまいにはこう彼に心の中で哀訴しているのだ。涙で責めるな!……私はまたしてもカアッとしてしまった。「何だって泣くんだ? これくらいのこと言われたって泣く奴があるか! 意気地なしめ!」「だ・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・そうした彼らを見ていると彼らがどんなに日光を恰しんでいるかが憐れなほど理解される。とにかく彼らが嬉戯するような表情をするのは日なたのなかばかりである。それに彼らは窓が明いている間は日なたのなかから一歩も出ようとはしない。日が翳るまで、移って・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・あまり小さく、窮屈に男性を束縛するのは、男性の世界を理解しないものだ。小さい几帳面な男子が必ずしも妻を愛し、婦人を尊敬するものではない。大事なところで、献身的につくしてくれるものでもない。要は男性としての本質を見よ。夫としてのたのみがいを見・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 農民の生活を題材として取扱う場合、プロレタリア文学は、どういう態度と立場を以て望むか、そして、どういう効果を所期しなければならないか、ということは、大体原則的には、理解されていた。それは、「土の芸術」とか「農村の文化」とか、農村を都市・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ということになると、君は知らなくても自分は心に愧じぬという訳にはゆかぬではないか。どうかあの鼎を還して下さい、千金は無論御返しするから」と理解させたのである。ところが世間に得てあるところの例で、品物を売る前には金が貴く思えて品物を手放すが、・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・あれは極く短いものだが、兎に角病人に対する深い理解や、同情が籠っていると思う。この女の友達が死んだ時に、透谷君が『哀詞』というものを書いた。ああいうものを書く時分から、透谷君自身のライフも、次第に磨り減らされて行ったように見える。 透谷・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・世界中で、日本人ほどキリスト教を正しく理解できる人種は少いのではないかと思っています。キリスト教に於いても、日本は、これから世界の中心になるのではないかと思っています。最近の欧米人のキリスト教は実に、いい加減のものです。」「そろそろ展覧・・・ 太宰治 「一問一答」
出典:青空文庫