・・・半ば硝子に雪のつもった、電燈の明るい飾り窓の中にはタンクや毒瓦斯の写真版を始め、戦争ものが何冊も並んでいた。僕等は腕を組んだまま、ちょっとこの飾り窓の前に立ち止まった。「Above the War――Romain Rolland……」・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・カフェの中央のクリスマスの木は綿をかけた針葉の枝に玩具のサンタ・クロオスだの銀の星だのをぶら下げている。瓦斯煖炉の炎も赤あかとその木の幹を照らしているらしい。きょうはお目出たいクリスマスである。「世界中のお祝するお誕生日」である。保吉は食後・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 奴は、旧来た黍がらの痩せた地蔵の姿して、ずらりと立並ぶ径を見返り、「もっと町の方へ引越して、軒へ瓦斯燈でも点けるだよ、兄哥もそれだから稼ぐんだ。」「いいえ、私ゃ、何も今のくらしにどうこうと不足をいうんじゃないんだわ。私は我慢を・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・電気か、瓦斯を使うのか、ほとんど五彩である。ぱッと燃えはじめた。 この火が、一度に廻ると、カアテンを下ろしたように、窓が黒くなって、おかしな事には、立っている土間にひだを打って、皺が出来て、濡色に光沢が出た。 お町が、しっかりと手を・・・ 泉鏡花 「古狢」
汽車がとまる。瓦斯燈に「かしはざき」と書いた仮名文字が読める。予は下車の用意を急ぐ。三四人の駅夫が駅の名を呼ぶでもなく、只歩いて通る。靴の音トツトツと只歩いて通る。乗客は各自に車扉を開いて降りる。 日和下駄カラカラと予の先きに三人・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・椿岳は取換え引換え妾を持って、通り掛りに自分の妾よりも美くしい女を見ると直ぐ換えたというほど盛んに取換えて、一生に百六十人以上の妾を持ったというはまた時代の悪瓦斯に毒された畸行の一つであった。だが、この椿岳の女道楽を単なる漁色とするは時代を・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・家具屋が来る。瓦斯会社が来る。交換局が来る。保険会社が来る。麦酒の箱が積まれる。薦被りが転がり込む。鮨や麺麭や菓子や煎餅が間断なしに持込まれて、代る/″\に箱が開いたかと思うと咄嗟に空になった了った。 誰一人沈としているものは無い。腰を・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・彼の名をダルガスといいまして、フランス種のデンマーク人でありました。彼の祖先は有名なるユグノー党の一人でありまして、彼らは一六八五年信仰自由のゆえをもって故国フランスを逐われ、あるいは英国に、あるいはオランダに、あるいはプロイセンに、またあ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 朝に、晩に、寒い風にも当てないようにして、育てゝ来た子供を機関銃の前に、毒瓦斯の中に、晒らすこと対して、たゞこれを不可抗力の運命と視して考えずにいられようか? 互に、罪もなく、怨みもなく、しかも殺し合って死なゝければならぬ子供等自身の・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつあるのは、解釈によっては、暴力の行使という他はありません。 さらに、インフレーションにより、当然招・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
出典:青空文庫