・・・いまに、お豆がたくさん生るわよ。」 玄関のわきに、十坪くらいの畑地があって、以前は私がそこへいろいろ野菜を植えていたのだけれども、子供が三人になって、とても畑のほうにまで手がまわらず、また夫も、昔は私の畑仕事にときどき手伝って下さったも・・・ 太宰治 「おさん」
・・・「屋根にかぼちゃが生るようだから、豆腐屋が馬車なんかへ乗るんだ。不都合千万だよ」「また慷慨か、こんな山の中へ来て慷慨したって始まらないさ。それより早く阿蘇へ登って噴火口から、赤い岩が飛び出すところでも見るさ。――しかし飛び込んじゃ困・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・『歎異抄』に「念仏はまことに浄土に生るゝ種にてやはんべるらん、また地獄に堕つべき業にてやはんべるらん、総じてもて存知せざるなり」といえる尊き信念の面影をも窺うを得て、無限の新生命に接することができる。・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・花を蹈みし草履も見えて朝寐かな妹が垣根三味線草の花咲きぬ卯月八日死んで生るゝ子は仏閑古鳥かいさゝか白き鳥飛びぬ虫のためにそこなはれ落つ柿の花恋さま/″\願の糸も白きより月天心貧しき町を通りけり羽蟻飛ぶや富・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・蓋の縫目より呪文をとなえ底なき瞳は世のすべてをすかし見て生あるものやがては我手に落ち来るを知りて 嘲笑う――重き夜の深き眠りややさめて青白き暁光の宇宙の一端に生るれば死はいずこかの片すみにかがま・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・只「ほんとうにすまないことになった、私のために……乳母も紅もあんなに世話をして呉れたのに、どうぞこの生る甲斐のない母をうらんで御呉れ」 こんなことばかり云っていた。「□(業でございましょう、私の御世話をいたしましたのも若様の御な・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫