・・・その中には生木を割くような生別もあるのである。 いったん愛し合い結び合った者は一生離れず終わりを全うするのが美しく望ましいのはいうまでもない。この現実の世ではそうした人倫の「有終の美」は稀なだけにどんなに尊いかしれない。天智天皇と藤原鎌・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・古人は、生別は死別より惨なりといった。死者には、死別のおそれもかなしみもない。惨なるは、むしろ、生別にあると、わたくしも思う。 なるほど、人間、いな、すべての生物には、自己保存の本能がある。栄養である。生活である。これによれば、人はどこ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・もなく、悲しみもなく、安眠・休歇に入って了うのに、之を悼惜し慟哭する妻子・眷族其他の生存者の悲哀が幾万年か繰返されたる結果として、何人も漠然死は悲しむべし恐るべしとして怪しまぬに至ったのである、古人は生別は死別より惨なりと言った、死者には死・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 日本の若い人々の間で愛の真実は、無惨な戦争による生別死別によって狂わされ、ためされた。今日の社会生活全般の不安定な錯雑したいきさつの間に、愛の堅忍と誠実とが試みにかけられつつある。親の権威よりはるかに強く猛々しい社会不合理に面している・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 生別、死別ということは、社会主義の世の中になっても人間の生活にはつきまとっているだろう。苦痛と悲しみのモメントとしてあるだろう。けれども、このたび応募されている手記のように、戦争によって夫や父を殺された妻、母の苦しみは、人間生活におこ・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
出典:青空文庫