・・・そうして最後に生き残る本然の要素は結局自分の子供のころの田舎の原始的な影法師に似たものになるのではないか。 欧州のどこかの寄席で或るイタリア人の手先で作り出す影法師を見たことがある。頭の上で両手を交差して、一点の弧光から発する光でスクリ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・しかし科学の世界ではすべての間違いは泡沫のように消えて真なもののみが生き残る。それで何もしない人よりは何かした人のほうが科学に貢献するわけである。 頭のいい学者はまた、何か思いついた仕事があった場合にでも、その仕事が結果の価値という点か・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・そういう際にはセリュローズばかりでできた書籍は哀れな末路を遂げて、かえって石に刻した楔形文字が生き残るかもしれない。そうでなくとも、また暴虐な征服者の一炬によって灰にならなくとも、自然の誤りなき化学作用はいつかは確実に現在の書物のセリュロー・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ それにしても同じ有害な環境におかれた三尾のうちで二つは死んで一つは生き残るから妙である。 水雷艇「友鶴」の覆没の悲惨事を思い出した。 あれにもやはり人間の科学知識の欠乏が原因の一つになっていたという話である。 忘れても二度・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が櫓の真似して、筋骨が暴馬から利足を取ッているあんばい、どうしても時世に恰好の人物、自然淘汰の網の目をば第一に脱けて生き残る逸物と見えた。その打扮はどんなだ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫