・・・ 田代君はこう云いながら、一体の麻利耶観音を卓子の上へ載せて見せた。 麻利耶観音と称するのは、切支丹宗門禁制時代の天主教徒が、屡聖母麻利耶の代りに礼拝した、多くは白磁の観音像である。が、今田代君が見せてくれたのは、その麻利耶観音の中・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・ ――――――――――――――――――――――――― 翌日、越中守は登城すると、御坊主田代祐悦が供をして、まず、大広間へ通った。が、やがて、大便を催したので、今度は御坊主黒木閑斎をつれて、湯呑み所際の厠へはいって・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・それでその手順の第一として先ず街上でダンサーに若い方の靴磨き田代公吉へモーションをかけさせ、アパートへ遊びに来ないかと招待させる。それをすぐオーケーとばかりに承諾しては田代公吉が阿呆になるからそれは断然拒絶して夕刊娘美代子の前に男を上げさせ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・この事件には外山、田代、伊藤、清水も――あとから飯田も共同謀議に参加している』といいました。これはまったく事実でないことですが、しかし」「証拠がなくても認定できるといわれると」「何もやっていない横谷やほかの人たちまで無実の罪をきせられるよう・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・裁縫室は音楽室にもなるのであった。田代先生といういつもシングル・カラーをして薄い髭を生やした音楽の先生が、唱歌を教えた。その先生は、冬の寒いとき、子供たちがつい八つくちから手を入れて懐手をしているのをみつけると、そらまた、へそを押えてる! ・・・ 宮本百合子 「藤棚」
出典:青空文庫