・・・「くそッ! じゃ、もう検査はないんかい?」「すんじゃったんだ。」「見まわりにも来ずに、どうしてすんだんだい?」「略図を見て、すましちゃったんだ。馬鹿野郎!」「畜生!」 坑夫等は、しばらく、そこに茫然と立っていた。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ただいま友人、大隅忠太郎君から、結納ならびに華燭の典の次第に就き電報を以て至急の依頼を受けましたが、ただちに貴門を訪れ御相談申上げたく、ついては御都合よろしき日時、ならびに貴門に至る道筋の略図などをお示し下さらば幸甚に存じます、と私も異様に・・・ 太宰治 「佳日」
・・・別紙に、うちまでの略図かきました。こんな失礼なことを申して、恥ずかしくむしゃくしゃいたします。字が汚くて、くるしゅう存じます。一生の大事でございます。ぜひとも御相談いたしたく、ほかにたのむ身寄りもございませぬゆえ、厚かましいとは存じながら、・・・ 太宰治 「花燭」
・・・私は、いつでもおいで下さい、と返事を書いて、また拙宅に到る道筋の略図なども書き添えた。 数日後、丸山です、とれいの舞台で聞き覚えのある特徴のある声が、玄関に聞えた。私は立って玄関に迎えた。 丸山君おひとりであった。「もうひとりの・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・ 私が、一部の読者を退屈させながら、この文章の前半に長々しく明治文学の略図を描いたのも、ここのところの歴史的の姿をもう一度、読者の判断の前に供したかったからである。 文学の仕事、文学者の任務が、大衆の指導にあるという自覚と、そのこと・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫