・・・ 或は、「こちらは異状ありません、ハ? いや何とも云って来ません」 警視庁で全市の警察から情報をあつめているのだ。 丁度上野でデモが解散という刻限、朝から晴れていた空が驟雨模様になって来た。「こりゃふるね」「同じふる・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・多賀ちゃんから先程手紙で、病気は何でもなく保健所でレントゲン透視をしてもらったら、どこにも異状なしでしたそうです。柳井の組合病院でもレントゲン写真を撮ったところ、これまで病気したあともなくて大変きれいだと言われたそうで大喜びして居ります。肺・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・にはじまる十九世紀の自然主義からロシアの批判的なリアリズムを通じてレマルクが「西部戦線異状なし」から「凱旋門」に至ったヨーロッパ――フランス、ドイツの恐ろしい三〇年間の社会と文学のいきさつを追求してみなければならないことを意味する。そして、・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
一口に片づけ切れない複雑な問題と思います。双方が総ての意味で真面目である場合とすれば、 一、現今のように、何か異状な出来事の如く感ぜず冷静に、深い愛を以って、愛人達の生活のよき発展を助けること、相手がよいわるい、適不適・・・ 宮本百合子 「子に愛人の出来た場合」
・・・或る程度に子供が育つまで……若し子供の体に異状があったり、お母さんの体に異状があったりすると、健康相談所から病院へ報告してくれて、無料で病気を直してもらえる。ソヴェトの保健省は全国民を無料で医療させるということを目標にしている。農村の方の衛・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・「日本刀焼ゴテで奮戦・文芸戦線大異状。」前田河広一郎・葉山嘉樹・岩藤雪夫及黒島伝治の写真。 東京へかえったら二三の知人が、 ――どうですね、日本のプロ文士の剣劇レビューは?と云って笑った。 ――ソヴェトのプロ文士の喧嘩もあん・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・私の五つで死んだ妹は、やはり脳に異状が起っているのを心づかず治療をまかせた医師の手落ちで死亡した。 私は、変質者、中毒患者、悪疾な病人等の断種は、実際から見て、この世の悲劇を減らす役に立つと信じる一人である。 結構なことであると思っ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・病監での日常事で意見が衝突した重吉について、精神異状者という書類を裁判所へ出した。「わたしはね、こんどこそ、本当にあなたを生かしたいと思って診てくれる人に診せたいの、いいでしょう?」 十二年の間、重吉は彼を積極的に生かそうとする意志・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・なんの異状もない。「先ず好かった」と思った時、眩暈が強く起こったので、左の手で夜具葛籠を引き寄せて、それに靠り掛かった。そして深い緩い息を衝いていた。 物音を聞き附けて、最初に駆け附けたのは、泊番の徒目附であった。次いで目附が来る。・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫