・・・その当時既にトルストイをもガンチャローフをもドストエフスキーをも読んでいた故長谷川二葉亭が下らぬものだと思ったのは無理もない、小説に関する真実の先覚者は坪内君よりは二葉亭であるといっても坪内君は決して異論なかろうと信ずる。私は公平無偏見なる・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・是等の異った作家が各々異った意義と形の上で異った印象を人に与うるのに異論がない。 故に、各派の芸術が主張する、主義、態度、即ち人生の批評に関しては容易に善悪を判ずることが出来ないばかりか、何人と雖も、少くも既に主義となって形成せられた現・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・だから、大文学が生れぬという説はもはや異論の余地がない。が、宗教の勢力の盛んだった中世ヨーロッパにどれだけの大文学があったか。むしろ宗教との対決、作家が神の地位を奪おうとした時に、大文学が生れた。と、こんなことを言っても、何にもならない。た・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・この範囲は異論があれば取除いてもよい。しかし一種の趣味があって武蔵野に相違ないことは前に申したとおりである―― 八 自分は以上の所説にすこしの異存もない。ことに東京市の町外れを題目とせよとの注意はすこぶる同意であって・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・と咎めた。異論のあるのに無理を通すようなことは秀吉は敢てせぬところである。しかも当時の博識で、人の尊む植通の言であったから、秀吉は徳善院玄以に命じて、九条近衛両家の議を大徳寺に聞かせた。両家は各固くその議を執ったが、植通の言の方が根拠があっ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・もう少し火災に関する一般的科学知識が普及しており、そうして避難方法に関する平素の訓練がもう少し行き届いていたならば少なくも死傷者の数を実際あったよりも著しく減ずることができたであろうという事はだれしも異論のないことであろうと思われる。そうし・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・を見なす事には多くの科学者も異論はないであろうが、それだけでは「時」の観念の内容については何事も説明されない。近ごろベルグソンが出て来て、カントや科学者の考えた「時」というものは「空間化された時」であって「純な時」というものがほかにあると考・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・これには自分はだいぶ異論があったように記憶する。しかしその時自分の言った事は忘れてただP君のこの言葉のみが記憶に残っている。 五階には時々各種の美術展覧会が催される、今の美術界の趨勢は帝展や院展を見なくてもいくぶんはここだけでもうかがわ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・この言葉の意味については本家本元の二人の間にも異論があるそうであって、これについては近ごろの読売新聞紙上で八住利雄氏が紹介されたこともある。 このモンタージュなるものは西洋人にとってはたしかに非常な発見であったに相違ない。そうしてこれに・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・其れも小説物語の戯作ならば或は妨なからんなれども、家庭の教育書、学校の読本としては必ず異論ある可し。然らば即ち今日の女大学は小説に非ず、戯作に非ず、女子教育の宝書として、都鄙の或る部分には今尚お崇拝せらるゝものにてありながら、宝書中に記す所・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫