・・・これには二人とも、勿論、異議のあるべき筈がない。そこで評議は、とうとう、また、住吉屋七兵衛に命じて銀の煙管を造らせる事に、一決した。 六 斉広は、爾来登城する毎に、銀の煙管を持って行った。やはり、剣梅鉢の紋ぢら・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・父にもその言葉には別に異議はないらしく見えた。 しかし彼は矢部の言葉をそのまま取り上げることはできなかった。六十戸にあまる小作人の小屋は、貸附けを受けた当時とどれほど改まっているだろう。馬小屋を持っているのはわずかに五、六軒しかなかった・・・ 有島武郎 「親子」
・・・「上げるために助けたのだから、これに異議はありません。浜は、それ、その時大漁で、鰯の上を蹈んで通る。……坊主が、これを皆食うか、と云った。坊主だけに鰯を食うかと聞くもいいが、ぬかし方が頭横柄で。……血の気の多い漁師です、癪に触ったから、・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ と小宮山は友人の情婦ではあり、煩っているのが可哀そうでもあり、殊には血気壮なものの好奇心も手伝って、異議なく承知を致しました。「しかし姐さん、別々にするのだろうね。」「何でございます。」「何その、お床の儀だ。」「おほほ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・これはもとより母の指図で誰にも異議は云えない。「マアあの二人を山の畑へ遣るッて、親というものよッぽどお目出たいものだ」 奥底のないお増と意地曲りの嫂とは口を揃えてそう云ったに違いない。僕等二人はもとより心の底では嬉しいに相違ないけれ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・と、僕の方から口を切って、もし両親に異議がないなら、してまた本人がその気になれるなら、吉弥を女優にしたらどうだということを勧め、役者なるものは――とても、言ったからとて、分るまいとは思ったが、――世間の考えているような、またこれまでの役者み・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・その点に関しては、私にはいささかの異議はない。 しかし、私はスタンダールはこんな墓銘を作らなかった方がよかったのではないかと思う。引用するのは後世の勝手だが、しかし、スタンダールを語るのに非常に便利な言葉、手掛りになるような言葉として引・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ 富岡先生の何々塾から出て遂に大学まで卒業した者がその頃三名ある、この三人とも梅子嬢は乃公の者と自分で決定ていたらしいことは略世間でも嗅ぎつけていた事実で、これには誰も異議がなく、但し三人の中何人が遂に梅子嬢を連れて東京に帰り得るかと、・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・というと、丹泉は携えて来ていたのであるから、異議なく視せた。唐は手に取って視ると、大きさから、重さから、骨質から、釉色の工合から、全くわが家のものと寸分違わなかった。そこで早速自分の所有のを出して見競べて視ると、兄弟かふたごか、いずれをいず・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・たる虎の子をぽつりぽつり背負って出て皆この真葛原下這いありくのら猫の児へ割歩を打ち大方出来たらしい噂の土地に立ったを小春お夏が早々と聞き込み不断は若女形で行く不破名古屋も這般のことたる国家問題に属すと異議なく連合策が行われ党派の色分けを言え・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫