・・・ 機一発、伊公の著名なる保安条例が青天霹靂の如く発布された。危険と目指れた数十名の志士論客は三日の間に帝都を去るべく厳命された。明治の酷吏伝の第一頁を飾るべき時の警視総監三島通庸は遺憾なく鉄腕を発揮して蟻の這う隙間もないまでに厳戒し、帝・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・同日午後五時に、山本伯の内閣が出来上り、それと同時に非常徴発令を発布して、東京および各地方から、食料品、飲料、薪炭その他の燃料、家屋、建築材料、薬品、衛生材料、船その他の運ぱん具、電線、労務を徴発する方法をつけ、まず市内の自動車数百だいをと・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ その日の夕暮に一城の大衆が、無下に天井の高い食堂に会して晩餐の卓に就いた時、戦の時期は愈狼将軍の口から発布された。彼は先ず夜鴉の城主の武士道に背ける罪を数えて一門の面目を保つ為めに七日の夜を期して、一挙にその城を屠れと叫んだ。その声は・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・を心に蓄うるのみにして容易に発せず、以て時機の到来を待ちたりしに、爾来世運の進歩に随い人の心も次第に和ぐと共に、世間の観察議論も次第に精密に入るの傾きある其中にも、日本社会にて空前の一大変革は新民法の発布なり。就中親族編の如きは、古来日本に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・しかしここで注目すべきことは、日本では、明治開化期が、二十二年憲法発布とともに、却って逆転させられて、人民の自由の封鎖がはっきりその頃からはじまった点である。それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・政府は、新しい民主憲法を、何故か世界民主国人民の祭日である五月一日に実効発生することをきらって、十一月三日に発布することにきめた。文部省は一億円という尨大な予算を憲法祭のためにとった。新歴史教科書もその関係で発表されたのであろう。 考え・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・ ところが、一八八九年憲法が発布されると同時に、人民の政治的な自由は、それによって基礎づけられてより活溌に展開されるべき筈が、却って、圧力を受けるようになった。憲法発布の翌年一八九〇年、大井幸子が自由党に加入することを警察が禁止し、「集・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 本年は憲法発布五十年記念に当る年である。二月十一日には大祝祭を行うそうである。その年に言論に対する政策が、一歩をすすめ、こういう形にまで立ち到ったことは、実に深刻な日本の物情を語っている。常識の判断にさえ耐えぬ無理の存在することが、執・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・それだのに政府は五月一日に実効を発するのは嫌だと、十一月三日に発布しました。主催在民の民主憲法を五月一日の世界のメーデーからわずか二日だけおくらして五月三日に実効を発せしめなければいやだという、その感情、そのものが今日の支配者、権力者が感じ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・日本の政府は狡猾で、新憲法発布のおまつりさわぎをしたりして、さも、いまの憲法がもうきまってしまったようにみせかけました。 ところが、そうでないことは、おまつりの最中にだってわかっていたのです。天皇がたとえ言葉の上で「シムボル」だといわれ・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫