・・・ 文学の発端とでもいうような、こういういきさつを、思いかえしてみると、わたしの少女時代の遠い記憶のなかには、一つの棚があって、そこにゴタゴタにつみこまれていた無数の雑誌や本が浮んで来る。文芸倶楽部、新小説、ムラサキ、古い女鑑という雑誌。・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・は、人間の善意が、次第に個人環境のはにかみと孤立と自己撞着から解きはなされて現代史のプログラムに近づいてゆく、その発端の物語としてあらわれる。 一九四九年六月〔一九四九年七月〕・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・それは作者が、恋愛というものに、消極的な性質を帯びたものと、積極的なものとあり、ある人の一生の時期の微妙な潮のさしひき、社会と個人との結合の関係などによって、恋愛のそれぞれの性質が発端において何れかに決せられると共に、発展の過程で恐ろしい作・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ その晩、自分は最後の時間をうけもっていたのでおそく出席し、そもそもその講習会員がどんな発端からそういう話をはじめたのかわからず、鹿地亘が意見を述べるのを聞いていた。「亀のチャーリー」について問題とすべきはプロレタリア文学としての創作方・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ ところが十四年前日本の軍力が東洋において第二次世界大戦という世界史的惨禍の発端を開くと同時に、反動の強権は日本における最も高い民主的文学の成果であるプロレタリア文学運動をすっかり窒息させた。そして、日本の旧い文学は、これまで自身の柱と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 太古のエジプトでは、僧侶が人の病をいやす役目もはたしていたという文明の発端から、人類の医療の父として語られるヒポクラテスの話におよびさらに、ウィリアム・ハーヴェーの血液循環の発見があり、やがてパストゥールによって細菌が発見されたのも、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ロマン・ロランは、アンネットによって、最も現代史を積極的に生きとおす可能をもった女性の発端の歩みを示したと思われる。 明日のフランス文学は、アンネット以後のアンネットを、どのように描くだろう。なぜならアンネットは「魅せられたる魂」の中に・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・『文学新聞』は「成功的な発端」としてこの経験を報道している。 各地方ロカフの激励によって「文学と戦争叢書」が続々刊行されはじめた。その一部として、アダム・ドミトリエフの『よし! 船をひけ』。別に、国内戦時代赤軍で働き有名な脚本「ラズ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・私の希望しているような生活的な、表現の健康なシムフォニックなものがつくられそうです。発端にその可能があらわれていると信じます。 旧い小説集というか、短編集、その他あります。入れて見ましょうか? あなたのおっしゃる前期的作品ですが。前期と・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれども、社会主義リアリズムが、真に現実にたえる制作の方法であるならば、ひとりの作家がその実際の条件にしたがって、ごく発端的な一歩から描き出し、永年の過程のうちにより広い歴史の展望とそこに積極の要素となってゆく人間の物語の延長にもたえるはず・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫