・・・ヴィナスやヘレネのように女性が芸術の上にあらわれたというところに、人類社会の歴史にあらわれている権力の形の――婦人の悲劇の発端がある。 こうして婦人のうけみな社会的立場をおのずから反映してうけみな対象として文学に導きいれられた婦人は、ル・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 満州事変が昭和六年九月に勃発したことは、以来引つづいて今日に及んでいる日本の全社会生活の大変動の発端をなしているが、婦選運動の流れは、ここにおいて歴史的屈折をよぎなくされている。 従来欠かさず提出されていた婦選案、廃娼案が昭和八年・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・はこれから二年ぐらいの間に完結したいと思っている長篇小説の発端で、彫刻で云えば、まだやっと頭の、しかもその一部分しか現れて来ていないものであるが、これはこれとして一篇をなしていると思う。 私たち一部の作家が、この数年間に経験して来た生活・・・ 宮本百合子 「序(『乳房』)」
日本の文学と文学者とは、最近数年の間に極めて容赦のない過程で、政治というものについて、目をさまされて来た。 大体日本文学は、その歴史の発端から、風流を文学の芸術性の骨子として、社会生活から或る程度離脱した位置に自身をお・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
・・・ あの作品の主題は主人公駿介にとって最も必然的であるべき事物のありよう、その事情に従っての現実的な心持の動きかたという発端が、先ず一ねじりされたものの上に展開されていた。その一ねじりは作者にとってそれから後をプラン通りに運ぶ便宜上役・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・党の文化問題として批判の発端がとりあげられたということで、他国の知識人の間には三十年来それが一つのマンネリズムになっているとおりソヴェト同盟における芸術の自由その他にたいする反撥が予想されるかもしれない。けれども、毛沢東が中国民衆の人間らし・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・人々が誠意をもって、少数者の利益のためにでっちあげられる戦争に反対を声明し、日本の人々をこめる世界の人民の平和を護ろうとするならば、こんにちの日本の現実において、もっとも発端的な人権に加えられているでっちあげを徹底的に排除しなければうそであ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・祖母は、不良少年のようにしてしまった発端における自分の責任は理解出来ないたちの人であったから、やくざになった一彰さんばかりを家名ということで攻めたてた。親族会議だとか廃嫡だとか大騒ぎをした。そして、そのごたごたの間に母の実家は潰れた形になっ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・文学の発端も、この人間性の主張にこそはらまれているのである。 平野氏が、小林多喜二の死を英雄的に考えることは、要するに一つの俗見であって、それは日本の民主主義そのもののうちに尾をひいている封建性であるとし、その幻想をはいで見せようと試み・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 人間の男女は、自然のままの表現としてはこんな発端で、愛情の永続を希う意志表示をして来た。そのような未開社会の男女の結合の間で、貞操などという言葉は思いつきもされなかった。同じくらいの好きさなら、同じぐらいいやでないならば、相手の男・・・ 宮本百合子 「貞操について」
出典:青空文庫