・・・ 彼は、彼の転換した方面へ会話が進行した結果、変心した故朋輩の代価で、彼等の忠義が益褒めそやされていると云う、新しい事実を発見した。そうして、それと共に、彼の胸底を吹いていた春風は、再び幾分の温もりを減却した。勿論彼が背盟の徒のために惜・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・しかしながら本当に考えてみると、その人の生活に十分の醇化を経ていないで、過去から注ぎ入れられた生命力に漫然と依頼しているのが発見されるだろう。彼が現在に本当に立ち上がって、その生命に充実感を得ようとするならば、物的環境はこばみえざる内容とな・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 今日我々のうち誰でもまず心を鎮めて、かの強権と我々自身との関係を考えてみるならば、かならずそこに予想外に大きい疎隔の横たわっていることを発見して驚くに違いない。じつにかの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委ねた・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ しかるにある時この醜態を先生に発見せられ、一喝「お前はなぜそんな見苦しい事をする。」と怒鳴られたので、原稿投函上の迷信は一時に消失してしまった。蓋し自分が絶対の信用を捧ぐる先生の一喝は、この場合なお観音力の現前せるに外ならぬのである。・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・物置の天井に一坪に足らぬ場所を発見してここに蒲団を展べ、自分はそこに横たわって見た。これならば夜をここに寝られぬ事もないと思ったが、ここへ眠ってしまえば少しも夜の守りにはならないと気づいたから、夜は泊らぬことにしたけれど、水中の働きに疲れた・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ 寒月の名は西鶴の発見者及び元禄文学の復興者として夙に知られていたが、近時は画名が段々高くなって、新富町の焼けた竹葉の本店には襖から袋戸や扁額までも寒月ずくめの寒月の間というのが出来た位である。寒月の放胆無礙な画風は先人椿岳の衣鉢を承け・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・彼は樅の成長について大なる発見をなしました。 若きダルガスはいいました、大樅がある程度以上に成長しないのは小樅をいつまでも大樅のそばに生しておくからである。もしある時期に達して小樅を斫り払ってしまうならば大樅は独り土地を占領してその成長・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・このあたりの地形を見たときから私は、古墳のあったところか、またどこかに発見されない古墳のあるところという気がしたのです。太古民族が、このあたりにも住んでいたのですね。それはそうと、なにかこのあたりで、おもしろい土器の破片か、勾玉のようなもの・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・相懸り法は当時東京方棋師が実戦的にも理論的にも一応の完成を示した平手将棋の定跡として、最高権威のものであったが、現在はもはやこの相懸り定跡は流行せず、若手棋師は相懸り以外の戦法の発見に、絶えず努力して、対局のたびに新手を応用している。が、六・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 私もそれきり黙って盃を嘗めつづけていたが、ふと、机に俯向いている彼の顔に、かなりたくさんの横皺のあることを発見して、ひとつはこうした空気から遁れたい気持も手伝って、「ほう……お前の額にはずいぶん皺が多いんだねえ! 僕にだってそんな・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
出典:青空文庫