・・・記念碑発起押っぽだての、帽子、靴、洋服、袴、髯の生えた、ご連中さ、そのつもりであったれど、寺の和尚様、承知さっしゃりましねえだ。ものこれ、三十年経ったとこそいえ、若い女じょうろうが埋ってるだ。それに、久しい無縁墓だで、ことわりいう檀家もなし・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・其処で三百円という類稀なる慰労金まで支出したのは、升屋の老人などの発起に成ったのである。 妻子の葬儀には母も妹も来た。そして人々も当然と思い、二人も当然らしく挙動った。自分は母を見ても妹を見ても、普通の会葬者を見るのと何の変もなかった。・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・歎服し満腹し小春お夏を両手の花と絵入新聞の標題を極め込んだれど実もってかの古大通の説くがごとくんば女は端からころりころり日の下開山の栄号をかたじけのうせんこと死者の首を斬るよりも易しと鯤、鵬となる大願発起痴話熱燗に骨も肉も爛れたる俊雄は相手・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 矢場は正木大尉や桜井先生などが発起で、天主台の下に小屋を造って、楓、欅などの緑に隠れた、極く静かな位置にあった。丁度そこで二人は大尉と体操の教師とに逢った。まだ他の顔触も一人二人見えた。一時は塾の連中が挙ってそこへ集ったことも有ったが・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・カーライルの歿後は有志家の発起で彼の生前使用したる器物調度図書典籍を蒐めてこれを各室に按排し好事のものにはいつでも縦覧せしむる便宜さえ謀られた。 文学者でチェルシーに縁故のあるものを挙げると昔しはトマス・モア、下ってスモレット、なお下っ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・然るに、徳教書編纂の事は、先年も文部省に発起して、すでに故森大臣の時に倫理教科書を草し、その草案を福沢先生に示して批評を乞いしに、その節、先生より大臣に贈りたる書翰ならびに評論一編あり。久しく世人の知らざるところなりしかども、今日また徳教論・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・婦人の地位を高尚にするの新案は、あたかも我が国未曾有の家屋を新築するものにして、我輩固より意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自ら居る者なれども、満目焔々たる大火の消防に忙わしくして、なお未だ新築に遑あらず。故に今後は、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・また小児の概して正直にして、無智の人民に道徳堅固の者多きは、今日の実際において疑うべからざることなれば、道徳は必ず人の教によるものにあらず、あたかも人の天賦に備わりて偶然に発起するものなりといえども、智恵は然らず。人学ばざれば智なし。面壁九・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・事だと気が付いた、そこで直様善光寺へ駈けつけて、段々今までの罪を懺悔した上で、どうか人間に生れたいと願うた、七日七夜、椽の下でお通夜して、今日満願というその夜に、小い阿弥陀様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳に汝が願い叶え得さすべし、信心・・・ 正岡子規 「犬」
・・・ Yの発起で芝浦のお台場を見物に行く。芝浦から日覆いをかけた発動和船。海上にポツリと浮いたお台場、青草、太陽に照っている休息所の小さなテント。此方ではカフェー・パリスと赤旗がひらひらしている。市民の遊覧、ルウソーの絵の感じであった。陽気・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
出典:青空文庫