・・・が悪いことは続くもので、その年の冬、椙が八年ぶりにひょっくり戻ってくるとお光を見るなり抱き寄せて、あ、この子や、この子や、ねえさんこの子はあての子どっせ、七年前に寺田屋の軒先へ捨子したのは今だからこそ白状するがあてどしたんえという椙の言葉に・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ 妙なことを白状しましょうか。と辰弥は微笑みて、私はあなたの琴を、この間の那須野のほかに、まあ幾度聞いたとお思いなさる。という。またそのようなことを、と光代は逃ぐるがごとく前へ出でしが、あれまあちょいと御覧なさいまし。いい景色のところへ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・僕は平気で白状しますが幾度僕は少女を思うて泣いたでしょう。幾度その名を呼で大空を仰いだでしょう。実にあの少女の今一度この世に生き返って来ることは僕の願です。「しかし、これが僕の不思議なる願ではない。僕の真実の願ではない。僕はまだまだ大な・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・実は――もう白状してもいいから言うが――実は僕近ごろ自分で自分を疑い初めて、果たしておれに美術家たるの天才があるのだろうか、果たしておれは一個の画家として成功するだろうかなんてしきりと自脈を取っていたのサ。断然この希望をなげうってしまうかと・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・そのために、逮捕せられ、あらゆるひどい拷問に付せられたが、共犯者を白状しなかった。 以上は、「義人ジミー」のホンの荒筋である。枚数が長くなることが気になって非常に不完全にしか書けなかった。 こゝには、インタナショナルの精神と、帝国主・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 老人は、身動きも出来ないように七八本の頑固な手で掴まれている二人の傍へ近づいて執拗に、白状させねばおかないような眼つきをして、何か露西亜語で訊ねた。 吉田も小村も露西亜語は分らなかった。でも、老人の眼つきと身振りとで、老人が、彼等・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・もうこうなっちゃあ智慧も何も、有ったところで役に立たねえ、有体に白状すりゃこんなもんだ。 女房は眉を皺めながら、「それもそうだろうが汝そうして当らない時はどうするつもりだエ。「ハハハ、どうもならねえそう聞かれちゃあ。生きてる中は・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を据えつけ発火の予防も施しありしに疵もつ足は冬吉が帰りて後一層目に立ち小露が先月からのお約束と出た跡尾花屋からかかりしを冬吉は断り発音はモシの二字をもって俊雄に向い白状なされと不意の糺弾俊雄はぎょッとした・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・率直に白状してしまった。「僕にやらせて下さい。僕に、」ろくろく考えもせず、すぐに大声あげて名乗り出たのは末弟である。がぶがぶ大コップの果汁を飲んで、やおら御意見開陳。「僕は、僕は、こう思いますねえ。」いやに、老成ぶった口調だったので、み・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ちゃんと白状していやがるのだ。ペテロに何が出来ますか。ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴の集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたな・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
出典:青空文庫