・・・何もかも白状した。しかし裁判官達には、おれがなぜそんな事をしたか分からない。「襟だって価のある物品ではありませんか」と、裁判官も検事も云うのである。「あいつはわたくしを滅亡させたのです。わたくしの生涯を破壊したのです。あいつが最初電・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・と実際のところを白状する。「それでも主人さ。これが俺のうちだと思えば何となく愉快だろう。所有と云う事と愛惜という事は大抵の場合において伴なうのが原則だから」と津田君は心理学的に人の心を説明してくれる。学者と云うものは頼みもせぬ事を一々説・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・「真剣のところを白状しなくっちゃいけないよ。いいかげんなことを言って引っ張るくらいなら、いっそきっぱり今のうちに断わるほうが得策だから」「いまさら断わるなんて、僕はごめんだなあ。実際叔父さん、僕はあの人が好きなんだから」 重吉の・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ 私は白状する。実に苦しいことだが白状する。――若しこの横われるものが、全裸の女でなくて全裸の男だったら、私はそんなにも長く此処に留っていたかどうか、そんなにも心の激動を感じたかどうか―― 私は何ともかとも云いようのない心持ちで興奮・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・わたくしはただいま白状いたします。わたくしはもう十六年前にあなたに恋をいたしていました。あなたが高等学校をお出になったばっかりの世慣れない青年でいらっしゃった時、わたくしはもうあなたに恋をいたしていました。しかしわたくしはあなたに誓います。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・なお正直にも彼は銭を多く貰いし時の思いがけなきうれしさをも白状せり。仙人のごとき仏のごとき子供のごとき神のごとき曙覧は余は理想界においてこれを見る、現実界の人間としてほとんど承認するあたわず。彼の心や無垢清浄、彼の歌や玲瓏透徹。 貧、か・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ この宣伝書を読んでしまったときは、白状しますが、私たちはしばらくしんとしてしまったのです。どうも理論上この反対者の主張が勝っているように思われたのであります。それとて、私も、又トルコから来たその六人の信者たちも、ビジテリアンをやめ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ほんとに白状しよう、わきを向いて居なされ――、お互さまじゃよ!第二の精霊 わしの目玉の黒い内はハハハハ…… マ良いワ、があのシリンクスの美くしさと云うたら……ま十年若かったらトナ、お互に思うのも無理であるまいと自分できめて居るのじゃ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・スチルネルと同じように、Hegel を本尊にしてはいるが、ヘエゲルの本を本当に読んだのではないと、後で自分で白状している。スチルネルが鋭い論理で、独創の議論をしたのとは違って、大抵前人の言った説を誇張したに過ぎない。有名な、占有は盗みだとい・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・しかし彼らには貧乏であるという事のほかになんにも白状すべきことがない。彼らは黙って静かにその苦しみに堪える。むしろある遠隔な土地へ行くためにはその苦しみが当然であることを感じている。たとえ眠られぬ真夜中に、堅い腰掛けの上で痛む肩や背や腰を自・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫