一 雨降りの午後、今年中学を卒業した洋一は、二階の机に背を円くしながら、北原白秋風の歌を作っていた。すると「おい」と云う父の声が、突然彼の耳を驚かした。彼は倉皇と振り返る暇にも、ちょうどそこにあった辞・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・当時作る所の『波』一篇は、白秋氏に激賞され、後選ばれて、アルス社『日本児童詩集』にのりました。父が死んだ年、兄は某中学校に教べんを取りました。父の死は肺病の為でもあったのですが、震災で土佐国から連れてきた祖父を死なし、又祖父を連れてくる際の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・北原白秋の故郷柳川は水郷である。その縦横のクリークにはドンコがたくさんいるので、私はよく柳川でドンコ釣りをしたが、緒方一三さんというドンコ通がいて、ドンコの頬ペタのフクラミの肉は、どんな魚の味よりもおいしい、その頬のサシミを手のひらに一杯食・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ ○ 北原白秋の『近代風景』はなつかしい。 ここに梶井基次郎の「筧の音」という散文詩があった。 問答「妻たち」が真面目な卓れた作品である。そういう話が同座の人々の中で一致した。あと・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・ 昔、北原白秋が羊皮にサファイアやルビーをちりばめた豪華版の詩集を出す広告をしたことがあった。実現したかしなかったのか知らない。白秋のロマンティシズムに、九州柳川の日が照って、桐の花がちりかかっていたように、その頃の、きれいな本をつくり・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・北原白秋氏は、観念上の「空爆」を万葉調の長歌にかいていられる。これらすべては、明日になって日本文学史の上に顧みれば、日本文学の弱い部分をなすものであり、各作家の秀抜ならざる作品の典型となるものなのである。いろいろな芸術家が、今日の風雲に応じ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・会員の顔ぶれとして、林房雄、浅野晃、北原白秋、保田与重郎、中河与一、倉田百三等、この一、二年来の新日本主義的提唱とともに既に顕著な傾向性を示すと共に一般からおのずからなる定評を与えられている諸氏以外に国文学その他の分野では一応は誰しも社会的・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫