・・・ 見よ、花袋氏、藤村氏、天渓氏、抱月氏、泡鳴氏、白鳥氏、今は忘られているが風葉氏、青果氏、その他――すべてこれらの人は皆ひとしく自然主義者なのである。そうしてそのおのおのの間には、今日すでにその肩書以外にはほとんどまったく共通した点が見・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・(ああ、ひもじいを逆 と真俯向けに、頬を畳に、足が、空で一つに、ひたりとついて、白鳥が目を眠ったようです。 ハッと思うと、私も、つい、脚を天井に向けました。――その目の前で、 名工のひき刀が線を青く刻んだ、小さな雪の菩薩・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・また、三年もたつと、海の上にうろこ雲がわいた日に、その貝は白鳥に変わってしまう。白鳥になると自由に空を飛ぶことができる、白鳥は遠い、遠い、沖のかなたにある「幸福の島」へ飛んでゆくというのであります。「幸福の島があるというが、それはほんと・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・ ちょうど、このとき、どこにいて、狙っていたものか、もう一度、子供が跳ね上がったとき、一羽の白鳥が、巧みに子供をくわえてしまいました。 子供は、驚きました。そして、身をもだえました。しかし、なんのかいもなかったのであります。「ど・・・ 小川未明 「魚と白鳥」
・・・ 青々とした海には白帆の影が、白鳥の飛んでいるように見えて、それはそれはいいお天気でありました。 そのとき、あちらの岩の上に空色の着物を着た、自分と同じい年ごろの十二、三歳の子供が、立っていて、こっちを見て手招ぎをしていました。正雄・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・はじめは白鳥が、小さな翼を金色にかがやかして、空を飛んでくるように思えた。それが私を迎えにきた船だったのだ。」 青年は、だれか知らぬが、海のかなたから自分を迎えにくるものがあるような気がしました。そして、それが、もう長い間の信仰でありま・・・ 小川未明 「希望」
・・・ ちょうど、ここに一羽の白鳥があって、北の海で自分の子供をなくして、心を傷めて、南の方へ帰る途中でありました。 白鳥は黙って、山を越え、森を越え、河を越えて、青い、青い海を遠く後にして、南の方をさして旅をしていました。白鳥は疲れると・・・ 小川未明 「港に着いた黒んぼ」
・・・アランや正宗白鳥のエッセイがいつ読んでも飽きないのは、そのステイルのためがあると思っている。このひと達へ作品からは結論がひきだせない。だから、繰りかえし読む必要があるし、そしてまたそれがたのしいのである。抜き書きをしない代り絶えず繰りかえし・・・ 織田作之助 「僕の読書法」
・・・正宗白鳥氏、内田百間氏。気になる余り、暇さえあれば読んでいる。川端氏、太宰氏の作品のうらにあるものは掴めるが、ああ、やってるなと思うが、もう白鳥、百間となると、気味がわるくてならない。怖い作家だ、巧いなあと思う作家は武田麟太郎氏、しかもこの・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・たちまち花、森、泉、恋、白鳥、王子、妖精が眼前に氾濫するのだそうであるが、あまりあてにならない。この次女の、する事、為す事、どうも信用し難い。ショパン、霊感、足のバプテスマ、アアメン、「梅花」、紫式部、春はあけぼの、ギリシャ神話、なんの連関・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫