・・・その棒を身体の前へ突き出し突き出しして、畑でもなんでも盲滅法に走るのだそうである。 私はこの記事を新聞で読んだとき、そぞろに爽快な戦慄を禁じることができなかった。 闇! そのなかではわれわれは何を見ることもできない。より深い暗黒が、・・・ 梶井基次郎 「闇の絵巻」
・・・ 何かいざこざが起ったりすると、目顔ですがるお君を見向きもしないで、盲滅法に、床屋だの銭湯に飛び込んだ。 そうも出来ない時には、部屋の隅にかたく座って、眼も心もつぶって、木像の様に身動きさえもしなかった。 只、専ら怖れて居ると云・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・何にも、心を注ぐすべない人が盲滅法に 恋をする。 夢中になって する――その心根は、いじらしい。 *或時には余り朗らかとも云えぬ情慾を混えた夫婦の 愛を経験して見ると親子・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・と云ったのでナアーンダとあきらめ、いねちゃん、大笑い、帰りに盲滅法に歩いたら明治座の横のプラタナスの大変綺麗な並木のある新しい公園へ出て、震災後のこの辺の新鮮な風景を味いました。明治座八月興行の立看板が出ていて「彦六大いに笑う」三好十郎作、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 父親は、ケムブリッジ大学を卒業し、ひとから未来を属望され、自分も大いに活動する気でいたところが、彼の盲滅法な性質から、深い考えもなく或る私塾を開いている牧師の娘と恋に落ち、結婚したまま有耶無耶に六年間舅の助手で過してしまいました。舅の・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・龍江という女のことばをかりて、力をこめ「人間は何千年もかかって人間と自然界の万物といろいろな意味で区別しようとする方へばかり盲滅法に歩いて来た」から、そのひとりよがりが「魂をこんなにさびしくした」のだ。いつかまた人間は「もと来たこの道を逆に・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫