・・・しかし実際は二億二千八百万キロメートルの距離にある直径百四十万キロメートルの火の玉である。 ヘルムホルツは薄暮に眼前を横ぎった羽虫を見て遠くの空をかける大鵬と思い誤ったという経験をしるしており、また幼時遠方の寺院の塔の回廊に働いている職・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし、これは火口から七キロメートルを隔てた安全地帯から見たからのことであって、万一火口の近くにでもいたら直径一メートルもあるようなまっかに焼けた石が落下して来て数分時間内に生命をうしなったことは確実であろう。 十時過ぎの汽車で帰京しよ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・流れの最も強い下流の方には方々直径七、八間ほどの漏斗形の大渦巻が出来ます。漁船などこれに巻込まれたら容易に出られなくなるそうです。汽船などでも流れの急でない時を見計らってでなければ通りません。図は前にも云った通り上げ潮の時の有様ですが、下げ・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・二、三十尺の高さに噴き上げている水と蒸気を止めるために大勢の人夫が骨を折って長三間、直径二インチほどの鉄管に砂利をつめたのをやっと押し込んだが噴泉の力ですぐに下から噴き戻してしまうので、今度は鉄管の中に鉄棒を詰めて押し入れたらやっと噴出が止・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・吐いてみたら黒い血が泥だらけの床の上に直径十センチくらいの円形を染めた。引続いて吐いたのはやや赤い中に何だか白いものの交じったので、前のの側に不規則な形をして二倍くらいの面積を染めた。浅利君が水を持って来たから医者を呼んでくれと頼んだ。吐い・・・ 寺田寅彦 「病中記」
・・・長いガラスの円筒の直径をカリパーのようなもので種々の点で測らせ、その結果を適当な尺度に図示して径の不同を目立たせて見るのもよい。これはつまらぬ事件のようであるが、実際自分の経験では存外生徒の実験的趣味を喚起する効果があるようである。あるいは・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・よく見ていると、そのようなのに限って袋の横腹に直径一ミリかそこらの小さい孔がある事を発見した。変だと思って鋏でその一つを切り破って行くうちに、袋の中から思いがけなく小さい蜘蛛が一匹飛び出して来てあわただしくどこかへ逃げ去った。ちらりと見ただ・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・縄でしばった南京袋の前だれをあてて、直径五寸もある大きな孟宗竹の根を両足の親指でふんまえて、桶屋がつかうせんという、左右に把手のついた刃物でけずっていた。ガリ、ガリ、ガリッ……。金ぞくのようにかたい竹のふしは、ときどきせんをはねかえしてから・・・ 徳永直 「白い道」
・・・木村氏が五百円の賞金と直径三寸大の賞牌に相当するのに、他の学者はただの一銭の賞金にも直径一分の賞牌にも値せぬように俗衆に思わせるのは、木村氏の功績を表するがために、他の学者に屈辱を与えたと同じ事に帰着する。――明治四四、七、一四『東京朝・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・餌壺の直径は一寸五分ほどだと思う。 自分はそっと書斎へ帰って淋しくペンを紙の上に走らしていた。縁側では文鳥がちちと鳴く。折々は千代千代とも鳴く。外では木枯が吹いていた。 夕方には文鳥が水を飲むところを見た。細い足を壺の縁へ懸けて、小・・・ 夏目漱石 「文鳥」
出典:青空文庫