・・・そうして目的地に着いて見ると、すぐ前に止まっている第一電車は相変わらず満員で、その中から人と人とを押し分けて、泥田を泳ぐようにしてやっと下車する人たちとほとんど同時に街上の土を踏むような事も珍しくはない。 私はいつもこうした混雑の週期的・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・ 西片町にしばらくいて、それから早稲田南町へ移られても自分は相変わらず頻繁に先生を訪問した。木曜日が面会日ときまってからも、何かと理屈をつけては他の週日にもおしかけて行ってお邪魔をした。 自分の洋行の留守中に先生は修善寺であの大患に・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・そうして相変わらず短いしっぽで、無器用なコンダクターのようにいろいろな∞の字を描いていた。 名前はちびにしようという説があったが、そういう家畜の名はあるデリカシーからさけたほうがいいという説があってそれはやめになった。いいかげんにたまと・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・そのたびにいつでも店員の中のあるものが一種の疑いの目をもって自分を注目しているような気がしたり、あるいは自分の美術に対する嗜好に同情をもっていないらしいある人たちのだれかが、不意に自分の肩をたたいて「相変わらずやってるね」とあびせかけられは・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ もうよほど年はとっていましたが、やはり非常な元気で、こんどは毛の長いうさぎを千匹以上飼ったり、赤い甘藍ばかり畑に作ったり、相変わらずの山師はやっていましたが、暮らしはずうっといいようでした。 ネリには、かわいらしい男の子が生まれま・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ しかしこれから生い立ってゆく子供の元気は盛んなもので、ただおばあ様のおみやげが乏しくなったばかりでなく、おっか様のふきげんになったのにも、ほどなく慣れて、格別しおれた様子もなく、相変わらず小さい争闘と小さい和睦との刻々に交代する、にぎ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・こうして相変わらずお上の物を食べていて見ますれば、この二百文はわたくしが使わずに持っていることができます。お足を自分の物にして持っているということは、わたくしにとっては、これが始めでございます。島へ行ってみますまでは、どんな仕事ができるかわ・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・ 寧国寺さんは羊羹を食べて茶を喫みながら、相変わらず微笑している。 五 富田は目を据えて主人を見た。「またお講釈だ。ちょいと話をしている間にでも、おや、また教えられたなと思う。あれが苦痛だね。」一寸顔を蹙・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫