・・・そして、彼女たちは課せられている義務が女にとってどんな苦しいものか或は重圧か、ということには省察を向けなかった。 今日、私たちが、責任を知るというとき、しろと云われたことは何でもやる、死んだ思いでするという判断のない服従からの行為を意味・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。 私の全心にとって、今、良人の死を予想することは、一つの恐ろしい空虚を想うことです。激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはい・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・りきたりな概括にまで思い及んだのであるが、今度は立場を逆にして、画家はどの程度にまで自分の絵を鑑賞しようとする人々の生理的な条件――その疲労とか休安とかの実状を考慮に入れているであろうかと、こと新たな省察を深められた。 勤労階級の生活感・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・とジイドの文句が引かれていても、主人公の男がいい家庭と云い、その建設のために妻を教育し扶けようとするという、その実質について全然人間生活という見地からの省察が向けられていない時、読者はどこに作者の魂の価値たるより激しき燃焼を見出すことが可能・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・主人公の僚友に対する責任感が、自身患者であるその人個人の安静の犠牲によって果されるしかないという療養所内の現実が、もっと読者に省察させるモメントとし、とらえられてよかった。 「縫い音」 関としを 「やもめ倶楽部」 赤城・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・しかも、発言をおさえる傾向が、民主的批評家はやっつけるだけ、という風な自己評価から出発しているとすれば、批評家は、自分たちの批評の方法について、重大な省察と再検討をするべきであったと思う。だが、それはなされなかった。波は岩の上をザーと流れた・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・によらなければならないとすれば、歴史小説における時空的な力の過度な評価ということは、益々戒心をもって省察されなければならなくなって来る。目前の事象の圧力が人間精神の自立性に対してそのように現われているとすれば、同時に現実は複雑だからそれへの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・対しては二つの端に立ちつつも、世俗的な常識に対して戦う態度は相通じたものをもっており、同時に、反撥し或は評価する自身の態度とともに、対象となる既定の文化・文学的教養そのものの歴史的な本質については深い省察を加えないところも、共通であった。・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 其処で、私は、自分達と同じ女性であるという点から、一層公平に、彼女等の讚すべき美くしさと、尊さとを称すと倶に、彼女等の持って居る人間らしい欠点に就ても静かな省察を試みたいのでございます。 彼女等も人間以外の何物でもございません。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 一九一二年頃から、陪審員としてルアンの重罪裁判に列席するようになり、ジイドの人間の行動、心理の推移に対する関心は、次第に自分の内部省察から、そとの人々の方に向けられて来た。一九二五年のコンゴへの旅行は、資本主義国における植民地経営の裏・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
出典:青空文庫