・・・だから、兵卒に着目したことには意義がある。 花袋は、独歩の如く、将校はいゝんだが、下士以下は不道徳で、女を堕落させるというような見方はしていない。兵卒を一個の生物的な人間として見た。そして、一個の死に直面した人間が、大きな戦争の動きのな・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・また陸上では起らぬようなタービンの故障が舶用タービンでしばしば起るのはタービン・ディスクの廻転に船の動揺が作用するためのジャイロスコピック・アクションに起因する盤の振動によるものであろうということに着目して、この不可解の問題を解決した。これ・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ しかし右のようにいえば、愚禿の二字は独り真宗に限った訳でもないようであるが、真宗は特にこの方面に着目した宗教である、愚人、悪人を正因とした宗教である。同じく愛を主とした他力宗であっても、猶太教から出た基督教はなお、正義の観念が強く、い・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・さりとて、政府もまた、よく人智の進歩に着目して油断すべからざるなり。政府と学者と直接に相対すること、今日の如くしては際限あるべからず。ゆえに、たがいに相遠ざかりて、相近づくの法を求めざるべからず。離は合の術なり、遠は近の方便なりとの趣意にし・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・のような題材に着目した点が注意をひく。その当時、作者が全然自覚していなかった心理的なモメント――新しく自分におこって来ている恋愛のあいてとその人との間にある思いが、人間の明るさより暗さを、素直さよりもより深く鬱屈を暗示したということは微妙な・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ 幼児の生活が、健康の点にも精神の上にも一生を通じて大切だということに着目されて来たのはよろこばしいことです。 ところが、中学生のものになると、今出ている少年向の雑誌の多くは、急に内容がおそまつになっています。どう編集していいかわか・・・ 宮本百合子 「親子いっしょに」
・・・彼がこの主題に着目したことには積極的な価値があった。けれどもこの主題の理解のしかた、扱いかたに問題があった。 ベズィメンスキーは「射撃」の中に、社会主義的善玉・悪玉を簡単に対立させた。その電車製作工場内に、ウダールニクを組織したコムソモ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして、現代の典型はルネッサンス時代のように、どういう意味においても強烈な個性によって――オセロとイヤゴーの例にしても――一定の社会に典型たり得ているという単純なものでないことも着目される。平凡な、人間性のよわい、自主性のかけた人物が、ある・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・皮肉なことは、戦後派とよばれた近代文学同人たちの大部分が、前年の下半期から一九四九年をとおして、インテリゲンチャとしてそれぞれに着目すべき社会的文学的前進を行っていたことである。個人主義の開花時代の近代ヨーロッパの文学精神を、日本で窒息させ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・埴原一丞の文章の小原壮助に着目されている部分ではこうかいている。一九四七年、豊原市に二十人位の文学志望者があって、新聞『新生命』を中心に樺太文学協会をつくろうということになった。第一回会合が新生命社でもたれ、「サガレン文学」を出すことにきめ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫