・・・唯古来の詩人や学者はその金色の瞑想の中にこう云う光景を夢みなかった。夢みなかったのは別に不思議ではない。こう云う光景は夢みるにさえ、余りに真実の幸福に溢れすぎているからである。 附記 わたしの甥はレムブラントの肖像画を買うことを夢みてい・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・私は、此の室の中で、独り臥たり、起きたり、瞑想に耽ったり、本を読んだりした。朝寒いので、床の中に入っていたけれど、朝起きの癖がついているので眤としていられなかった。起きても、羽織すら用意して来なかったので、内湯に行ったのである。広いという程・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・ どこか、庭の捨て石の下からはい出てきた、がまがえるが、日あたりのいい、土手の草の上に控えて、哲学者然と瞑想にふけっていましたが、たまたま頭が上へ飛んできた、女ちょうのひとりごとをきくと、目をぱっちりと開けて、大きな口で話しかけました。・・・ 小川未明 「冬のちょう」
もう昔となった。その頃、雑司ヶ谷の墓地を散歩した時分に、歩みを行路病者の墓の前にとゞめて、瞑想したのである。名も知れない人の小さな墓標が、夏草の繁った一隅に、朽ちかゝった頭を見せていた。あたりは、終日、しめっぽく、虫が細々とした声で鳴・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・もしそれこれを憶うていよいよ感じ、瞑想静思の極にいたればわれ実に一呼吸の機微に万有の生命と触着するを感じたりき もしこの事、単にわが空漠たる信念なりとするも、わが心この世の苦悩にもがき暗憺たる日夜を送る時に当たりて、われいかにしばしば汝・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・大津は独り机に向かって瞑想に沈んでいた。机の上には二年前秋山に示した原稿と同じの『忘れ得ぬ人々』が置いてあって、その最後に書き加えてあったのは『亀屋の主人』であった。『秋山』ではなかった。・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・と話すのを、こっちも芸術家だ、眼をふさいで瞑想しながら聴いていると、ありありとその姿が前に在るように見えた。そしてまだ話をきかぬ雌までも浮いて見えたので、「雌の方の頸はちょいと一うねりしてネ、そして後足の爪と踵とに一工夫がある。」・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・妙なもので、あのように鈍重に見えていても、ものを食う時には実に素早いそうで、静かに瞑想にふけっている時でも自分の頭の側に他の動物が来ると、パッと頭を曲げて食いつく、是がどうも実に素早いものだそうで、話に聞いてさえ興醒めがするくらいで、突如と・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・どれ、きょうも高邁の瞑想にふけるか。僕がどんなに高貴な生まれであるか、誰も知らない。」 ネムの苗。「クルミのチビは、何を言っているのかしら。不平家なんだわ、きっと。不良少年かも知れない。いまに私が花咲けば、さだめし、いやらし・・・ 太宰治 「失敗園」
・・・女は、瞑想しない。女は、号令しない。女は、創造しない。けれども、その現実の女を、あらわに軽蔑しては、間違いである。こんなことは、書きながら、顔が赤くなって来て、かなわない。まあ、やさしくしてやるんだね。 絶望は、優雅を生む。そこには、ど・・・ 太宰治 「女人創造」
出典:青空文庫