・・・ 或る芸術品に対した時、其の作品から吾人は何等の優しみも、若やかな感じも与えられず、恰かも砂礫のような、乾固したものであったなら、其れは芸術品としての資格を欠くと謂い得る。芸術には『冷たな』芸術がある。たとえ冷たな芸術品でも優しみと若や・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・白っぽい砂礫を洗う水の浅緑色も一種特別なものであるが、何よりも河の中洲に生えた化粧柳の特異な相貌はこれだけでも一度は来て見る甲斐があると思われた。この柳は北海道にはあるが内地ではここだけに限られた特産種で春の若芽が真赤な色をして美しいそうで・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・「もっともこの砂礫じゃ、作物はだめだからね」「いいえ、作物もようできますぜ。これからあんた先へ行くと、畑地がたくさんありますがな」「この辺の土地はなかなか高いだろう」「なかなか高いです」 道路の側の崖のうえに、黝ずんだ松・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫