・・・人民生活のごまかしようのない逼迫は、あらゆる女性の問題を、むき出しに社会問題として、半封建の特権者によって行われているファシズムへの傾きをもつきょうの政治の破綻としてわたしたちの毎日にほこさきを出しているのである。女性の風俗、モードの問題ひ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・自分の結婚生活の破綻は益々切迫しているとき、作者が、身辺に取材しないで、現実から翔びはなれて、「古き小画」のような題材をとらえて書いたということには、その当時では自覚されていなかった二つの意味が見出される。一つは、作者の日々の感情に犇めいて・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ プロレタリア的実践力の欠如によって起るさまざまの破綻を、僕というプロレタリア作家は「無力な小説家的詠嘆だというなかれ! 実際僕は悩んだのだ」と、さながら小説家というものの本質は無力なるもので「どんな場合にでも呑気でいかん」ものなのだが・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・映画全体として、これは一つの大きい破綻のモメントである。監督フランクリンがそれに心付いていまい。そのことにもまたこの監督の身についている社会性の複雑さが語られていて感想を刺戟するところである。阿蘭が農奴として育ち農婦として大地を愛して生きる・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ この小説で、作者はおそらく作品の小さくて破綻のない気分の磨き上げなどというところを目ざさず、大きくダイナミックに動いて作品として勇気のある不統一ならばそれが生じることを敢ておそれぬ心がまえであったのだろう。描こうとする現実と平行に走っ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・は、結核におかされた人々の発病原因となった生活事情、発病のためにおこって来る愛の破綻、療養の方法を発見するための意志的な努力など、すべての闘病者に共通な課題にふれて語っている。文学作品とするとかたい。けれども、感情に正常な健全さがある。・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・今日の饑餓と社会生活全面の破綻をもたらした戦争について、人民を其処へ追い込むまいと献身し、わが身を犠牲とした代議士が、一人でも在っただろうか。只今開催中の臨時議会は、戦争犯罪人の摘発に脅かされて、新聞はおのずから諷刺的に彼等の恐慌を語ってい・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・『慈悲光礼讃』という画題は、氏がこの画を描こうとした時の想念を現わすものかどうかは知らないが、もしこの種の企図を持ってこの画を描いたとすれば、そこにすでに破綻がある。もとより僕は画家が想念の表現に努めることを排するのではないが、その想念がか・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・この一つの欠点のゆえに、いろいろな破綻が生じてくるのである。家老は大将のこの性格をはばかって、その主張しようとする穏健な意見を、十分に筋を通して述べることができぬ。したがって不徹底、因循に見える。大将はそれを不満足に感ずる。そのすきにつけ込・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ このことに気づいたとき私は、『道草』に描いてある夫婦生活の破綻を再び意味深く反省してみる気持ちになった。あの小説の主人公も細君も、決して悪い人ではない。しかしいずれも我が強く、素直に理解し合い、いたわり合おうとはしない。二人の間にやさ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫