・・・が、この記事は必ずしも確実な報道ではなかったらしい。現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八時前後、黄塵を沾した雨の中に帽子をかぶらぬ男が一人、石人石馬の列をなした十三陵の大道を走って行ったことを報じている。すると半三郎は××胡同の社宅の玄関を・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・「じゃこれだけは確実だね。――この別荘の主人は肺病になって、それから園芸を楽しんでいて、……」「それから去年あたり死んだんだろう。」 僕等はまた松の中を「悠々荘」の玄関へ引き返した。花芒はいつか風立っていた。「僕等の住むには・・・ 芥川竜之介 「悠々荘」
・・・「私は実はこちらを拝見するのははじめてで、帳場に任して何もさせていたもんでございますから、……もっとも報告は確実にさせていましたからけっしてお気に障るような始末にはなっていないつもりでございますが、なにしろ少し手を延ばして見ますと、体が・・・ 有島武郎 「親子」
・・・必要は最も確実なる理想である。 さらに、すでに我々が我々の理想を発見した時において、それをいかにしていかなるところに求むべきか。「既成」の内にか。外にか。「既成」をそのままにしてか、しないでか。あるいはまた自力によってか、他力によってか・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 萎れた草花が水を吸い上げて生気を得たごとく、省作は新たなる血潮が全身にみなぎるを覚えて、命が確実になった心持ちがするのである。「失態も糸瓜もない。世間の奴らが何と言ったって……二人の幸福は二人で作る、二人の幸福は二人で作る、他人の・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・「マダ十分解らんが、勝利は確実だ。五隻か六隻は沈めたろう。電報は来ているが、海軍省が伏せてるから号外を出せないんだ、」とさも大本営か海軍省の幕僚でもあるような得意な顔をして、「昨夜はマンジリともしなかった。今朝も早くから飛出して今まで社・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ いかなる話が語られるにせよ、語る人の態度が真面目でなかったなら、子供の心を確実に掴むことはできません。従って、語る人と聴く者との心の接触から生ずる同化が大切であるのであります。 真実というものが、いかに相手を真面目にさせるか、熱情・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・と云う無産階級者の苦悩も、現在の社会制度が現在の儘であるならば、或は免れ難い苦悩であるかも知れぬが、これはその原因を明かにして、これに対応する理想と努力さえあれば、よりよき生活や社会が生れて来ることは確実になった。即ち経済的の苦悩はお互の努・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・「日によって違うが、徹夜で仕事すると、七八十本は確実だね。人にもくれてやるから、百本になる日もある」「一本二円として、一日二百円か。月にして六千円……」 私は唸った。「それだけ全部闇屋に払うのか」「いや、配給もあるし、な・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・前の晩自宅で血統や調教タイムを綿密に調べ、出遅れや落馬癖の有無、騎手の上手下手、距離の適不適まで勘定に入れて、これならば絶対確実だと出馬表に赤鉛筆で印をつけて来たものも、場内を乱れ飛ぶニュースを耳にすると、途端に惑わされて印もつけて来なかっ・・・ 織田作之助 「競馬」
出典:青空文庫