・・・――然しOが私にからかった紙の上には Waste という字が確実に一面に並んでいます。「どうして、大ちがいだ」と私は云いました。そしてその訳を話しました。 その前晩私はやはり憂鬱に苦しめられていました。びしょびしょと雨が降っていまし・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・そのものの事実性が、知識の確実性の根拠であるとした。カントのアプリオリの如き不毛の主知的観念に知識の妥当性があるのではない。具体的、直接なる体験は「生」の進展して止まぬ発動である。彼はいった。「ロックや、ヒュームやカントが作りあげた認識主観・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・かくて政権は確実に北条氏の掌中に帰し、天下一人のこれに抗議する者なく、四民もまたこれにならされて疑う者なき有様であった。後世の史家頼山陽のごときは、「北条氏の事我れ之を云ふに忍びず」と筆を投じて憤りを示したほどであったが、当時は順逆乱れ、国・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・吾々は、プロレタリアートの持つ、帝国主義××××の意志、思想を、感情にまで融合さし、それを力強く表現することによって、一般の労働者農民への、影響力を広く、確実にしなければならない。文学の全×××宣伝力を挙げて、労働者農民に力強く喰い入ること・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・私の健康も確実に回復するほうに向かって行ったが、いかに言ってもそれが遅緩で、もどかしい思いをさせた。どれほどの用心深さで私はおりおりの暗礁を乗り越えようと努めて来たかしれない。この病弱な私が、ともかくも住居を移そうと思い立つまでにこぎつけた・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・けれども、一粒の種子は、確実に残して置きたい。こんな男もいたという事を、はっきり書いて残して置きたい。 君は、だらしが無い。旅行をなさるそうですが、それもよかろう。君に今、一ばん欠けているものは、学問でもなければお金でもない。勇気です。・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・自殺の虫の感染は、黒死病の三倍くらいに確実で、その波紋のひろがりは、王宮のスキャンダルの囁きよりも十倍くらい速かった。縄に石鹸を塗りつけるほどに、細心に安楽の往生を図ることについては、私も至極賛成であって、甥の医学生の言に依っても、縊死は、・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・それらの光景は、私にとって、手にのせて見るよりも確実であった。キャップの裏切。逃走。そのうえに、海野三千雄のにせ者の一件が大手をひろげて立っていた。女に告白できるくらいなら、それができるたちの男であったなら二十一歳、すでにこれほど傷だらけに・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・論理的に確実なある物を捕える喜びは、もうこの頃から彼のうら若い頭に滲み渡っていた。数理に関する彼の所得は学校の教程などとは無関係に驚くべき速度で増大した。十五歳の時にはもう大学に入れるだけの実力があるという事を係りの教師が宣言した。 し・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函数などの概念を注ぎ込むよりも遥かに早く確実に、おまけに面白くこれらの数学的関係を呑み込ませる事が出来る。一体こういう学問の実際の起原はそういう実用問題であったではないか。例えばタレー・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫