・・・殊に私の予想が狂うのは、今度三浦に始めて会った時を始めとして、度々経験した事ですから、勿論その時もただふとそう思っただけで、別段それだから彼の結婚を祝する心が冷却したと云う訳でもなかったのです。それ所か、明い空気洋燈の光を囲んで、しばらく膳・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・……窈窕たるかな風采、花嫁を祝するにはこの言が可い。 しかり、窈窕たるものであった。 中にも慎ましげに、可憐に、床しく、最惜らしく見えたのは、汽車の動くままに、玉の緒の揺るるよ、と思う、微な元結のゆらめきである。 耳許も清らかに・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・が、同時に入露以前から二、三の露国革命党員とも交際して渠らの苦辛や心事に相応の理解を持っていても、双手を挙げて渠らの革命の成功を祝するにはまた余りに多く渠らの陰謀史や虐殺史を知り過ぎていた。 二葉亭の頭は根が治国平天下の治者思想で叩き上・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・若者、万歳――口にこそそれを出さなかったが、青春を祝する私の心はその盃にあふれた。私は自分の年とったことも忘れて、いろいろと皆を款待顔な太郎の酒をしばらくそこにながめていた。 七日の後には私は青山の親戚や末子と共にこの山を降りた。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・これを祝する意味に於いて、だ、(一升瓶とさかなを両手にぶらさげ部屋にはいり、部屋の上手の襖おうい、おうい。節子! (と母屋野中の妻、節子、登場。しかし、襖の外にしゃがんでいる形なので観客からは見えぬ。(その襖の外の節・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・それは、ポーラとの結婚を祝する座員ばかりの水入らずの宴会の席で、ポーラがふざけて雌鶏のまねをして寄り添うので上きげんの教授もつり込まれて柄にない隠し芸のコケコーコーを鳴いてのける。その有頂天の場面が前にあるので、後に故郷の旧知の観客の前で無・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫