・・・ いったい今度の会は、最初から出版記念とか何とかいった文壇的なものにするということが主意ではなかったので、ほんの彼の親しい友人だけが寄って、とにかくに彼のこのたびの労作に対して祝意を表そうではないかという話からできたものなのだ。それがい・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・中外公論よりの百枚以上の小説かきたまえ、と命令、よき読者、杉山氏へのわが寛大の出来すぎた謝辞とを思い合せて、まこと健康の祝意示して、そっと微笑み、作家へ黙々握手の手、わずかに一市民の創生記、やや大いなる名誉の仕事与えられて、ほのぼのよみがえ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・あちこちで祝出征の旗が見えるようになってその横丁でも子供対手の駄菓子屋の軒に、いかにも三文菓子屋らしい祝意のあらわしかたで紙でこしらえた子供の万国旗がはりまわされた。そこからも出る人があるのだ。ふだんは工場へでも通っていた若い人であるのだろ・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
出典:青空文庫